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おくりびと:「納棺夫日記」との違いは?なぜ原作ではない?(3止)「納棺夫日記」著者・青木さんに聞く

青木新門さん=荒牧万佐行撮影
青木新門さん=荒牧万佐行撮影

 ◇本木君に心から喝采を--『納棺夫日記』著者・青木新門さん

 --アカデミー賞の受賞をどう受け止められましたか。

 青木さん 主演の本木君に心から喝采(かっさい)を送りたいと思いました。もともと、『納棺夫日記』の中の、ウジが光って見える場面の文章を、写真集に引用したいとおっしゃられて、それがきっかけなんですが、私は非常に感動したんですね。生と死がつながっていると感じなければ、ウジは光って見えない。若いのにすごいと。

 その後、ある雑誌で本木君が『納棺夫日記』の映画化を切望していると読んで、私は彼に手紙を送りました。「僕が思うに、本木さんしか、映画化は出来ないでしょう」と。初めはお棺や死体が出てくる映画は、興行収入的に採算が合わないと反対されたようですが、そのうち賛同する人が出てきた。映画化にあたって、一つだけ条件を出しました。行きがかり上、私は本木君を主演から外すんであれば断りますと。彼からは「映画化についてお許しいただき、ありがとうございました」という手紙をいただきました。

 --しかし青木さんは原作者として名前が挙がることを、辞退されていますね。

 青木さん 送られてきたシナリオを見るとね、親を思ったり、家族を思ったり、人間の死の尊厳について描かれているのは、伝わってきて、すばらしいんです。ただ、最後がヒューマニズム、人間中心主義で終わっている。私が強調した宗教とか永遠が描かれていない。着地点が違うから、では原作という文字をタイトルからはずしてくれって、身を引いたんです。

 --できあがった映画「おくりびと」をご覧になってのご感想は。

 青木さん ここまできれいで、美しい映画になるとは思わなかった。風景がよかった。俳優さんたちの力に脱帽しますと本木君には言いました。本音です。やはりスタッフもみんな力がありますよ。人間中心主義かもしれないけど、人と人とのつながりや家族のきずなが大事だとアピールしていますよね。どの場面でも、必ず家族が後ろにいます。本木君が『納棺夫日記』に出合って、映画が出来たというのは確かですが、『納棺夫日記』は『納棺夫日記』で、映画は映画というスタンスは今も変わりません。

 --日本や海外で映画がどうして高い評価を受けたのだと思われますか。

 青木さん いかにも現代の世相をクローズアップした作品です。アメリカも金融危機やオバマ大統領誕生など、価値観の変化が起こってきている。生と死とを分けて、生が絶対で、お金や経済が大事でそちらに向かったけど、それだけではない、という感じが出ています。例えば、あの大統領は集会をキャンセルして、危篤のおばあちゃんを優先したんです。1、2年前だと、受賞は分からなかった。本木君が、「オスカーにノミネートされました」と電話をしてきたとき、「絶対取れますよ」と答えたんです。「ウジの光は、オスカーの黄金の光にもつながりますから」って。

 --宗教色や生死への哲学的な思索が薄くなって、わかりやすくなったということはないでしょうか。

 青木さん 複雑です。死者と生者のきずなが大事だよと映画は教えてくれるけど、最後は「癒やし」なんですよね。そこで止まっていたら、やがて人間中心主義・ヒューマニズムは、自己中心主義になるのではないでしょうか。癒やしだけだと、その場を取り繕うことになりかねません。におい消しみたいなもので、においそのものを断っているわけではない。においそのものを断つには、宗教的なものが必要になるんです。本を書いたときから、なぜ宗教を書いたのって、言われました。(より専門的に宗教を書いた)3章を書かなかったらノンフィクションの賞に推薦すると言った人もいました。でも宗教に目覚めたのは、3000体の遺体を送ってきた経験からですよ。元々勤めていた会社の社員に読ませようと思って刷ったんですから。

 --納棺師への問い合わせが殺到しているという報道もあります。

 青木さん 悪いことではないし、職業に貴賤(きせん)がないということではいいと思うんです。ただ死者に対する心は大切にしてほしい。毎回、ドキドキしないとダメなんです。

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 ■人物略歴

 ◇あおき・しんもん

 1937年、富山県生まれ。富山市内で飲食店を経営したが倒産。冠婚葬祭会社に勤めた。詩集に『雪原』、エッセー集に『木漏れ日の風景』など。

2009年3月2日

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