県立医大付属病院での出産を巡る損害賠償請求訴訟は26日、提訴から6年10カ月を経て医大側が再発防止に取り組むことを条件に和解に至った。次女を亡くした原告の幕田智広さん(42)=福島市=は「これからが大事。本当に医療現場が改善されていくのか見守りたい」と話し、命の重みを改めて訴えていた。【神保圭作】
原告代理人によると、和解内容には、帝王切開経験後の自然分べん(VBAC)患者への対応として、▽妊婦や夫への十分なインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく合意)を得る▽子宮破裂の兆候を認めたら速やかに施術を行えるようにする▽6カ月以内に手順書を作成する--の3点が盛り込まれた。
和解後の会見で、智広さんは「医療側と患者側が納得して和解できたことは有意義だったのでは」としながらも、「医者不足を医療行為(の不備)と結びつけると医療は崩壊する。医者の本分は、適正な医療行為を責任をもって提供することだ」と訴えた。また妻美江さん(42)は「(亡くなった次女の)未風(みゅう)を通じて医療の発展や改善に進むのなら、死は無駄ではなかった」と話した。
一方、同病院の竹之下誠一院長は「事故当時の医療水準に照らし過失はないと考えているが、ご家族の心情を踏まえ和解することとした。安心して治療を受けてもらえるよう努力していく」とのコメントを出した。
VBACは成功例も多いものの、帝王切開の経験がない患者に比べ、子宮破裂のリスクが高いとされる。実施には、緊急の帝王切開手術が可能な態勢が求められ、各病院が適否の基準作りを進めている。1審の福島地裁判決によると、VBAC患者が帝王切開に移行する割合は3~4割という。
幕田さん夫妻は同日、医大に提出した意見書で「子宮破裂を想定した厳格な危機管理体制が構築できて初めて、妊婦に提供されるべきもの」と主張した。
毎日新聞 2009年2月27日 地方版