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靖国合祀訴訟:神社への遺族の取り消し請求棄却 大阪地裁

大阪地裁に入る靖国神社合祀取り消し訴訟の原告団=大阪市北区で2009年2月26日午前10時45分、三村政司撮影
大阪地裁に入る靖国神社合祀取り消し訴訟の原告団=大阪市北区で2009年2月26日午前10時45分、三村政司撮影

 第二次世界大戦の戦没者遺族9人が「同意なく肉親をまつられ、故人をしのぶ権利が侵害された」として、靖国神社への合祀(ごうし)取り消しを同神社に求めた訴訟で、大阪地裁は26日、原告の請求を棄却した。村岡寛裁判長は「原告の主張する権利は、合祀という宗教行為による不快や、神社への嫌悪の感情と評価するしかなく、法的利益と認められない」とした。同神社が被告となった訴訟の初の司法判断で、東京、那覇両地裁で係争中の同様の訴訟にも影響しそうだ。

 判決は合祀について「遺族らの同意・承認を得ることが社会的儀礼としては望ましい」と指摘したが、「合祀行為には強制や不利益がなく、原告の求める権利に法的利益はない」と結論付けた。

 原告は「国が憲法が定めた政教分離に反して神社に戦没者名などの情報を提供し、合祀に全面協力した」と主張。国と神社の共同不法行為を問い、1人当たり100万円の慰謝料も求めていた。この点について判決は「国の行為は、多数の合祀を行う上で重要な要素をなしたが、合祀は神社が最終決定した」として棄却した。

 原告は近畿、四国、中国、北陸に住む64~82歳の男女。訴えによると、父や兄弟など肉親が旧日本軍の軍人・軍属として戦死・病死し、戦中戦後に合祀された。原告は「神社から取り消しを要請したが拒否され、自分の方法で追悼する人格権を侵害された」と主張し、合祀儀式に使う霊璽(れいじ)簿など三つの名簿から肉親の氏名を抹消するよう求めた。

 神社は、護国神社への合祀を巡り、キリスト教徒の遺族が敗訴した自衛官合祀拒否訴訟で最高裁が「宗教的人格権は法的利益と認められない」とした判決(88年)を根拠に、「原告の求める権利は最高裁が否定した宗教的人格権と同一」と反論。さらに、戦没者の氏名を記入した霊璽簿などの名簿は「合祀手続きに不可欠で、神社にも信教の自由がある」と主張していた。

 一方、国は「合祀は靖国神社が行ったもので、情報提供は一般的な行政事務の範囲内」と請求棄却を求めていた。【川辺康広】

 原告の弁護団は「原告らの被害を矮小(わいしょう)化し、原告らの真摯(しんし)な訴えに耳を傾けない判決だ」とコメント。一方、靖国神社の小方孝次総務部長は「妥当な判決と考えている」、厚生労働省の平林茂人社会・援護局業務課長は「国側のこれまでの主張が認められたと考えている」とのコメントを出した。

 【ことば】靖国神社

 明治政府が1869(明治2)年に戊辰(ぼしん)戦争の戦死者慰霊のため「東京招魂社」として創建、1879年に靖国神社に改称した。第二次大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の「神道指令」によって国家神道が廃止され、一宗教法人となった。明治維新から太平洋戦争までの戦死者ら246万6000柱余を祭神としている。1959年からB、C級戦犯の合祀が始まり、78年に東条英機元首相ら東京裁判のA級戦犯14人が合祀された。

毎日新聞 2009年2月26日 11時01分(最終更新 2月26日 13時40分)

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