テレビ業界が、番組作りを発注する制作会社への「下請けいじめ」をなくそうと、総務省と自主ルールをまとめた。契約書もかわさずに発注し、金額を一方的に下げることが珍しくない現状を改める狙いだ。制作会社の著作権も尊重する。NHKと地上波テレビ放送を手がける120社余りの全民放を対象に、3月中に実施する。
自主ルールは「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン(指針)」。総務省と放送局、番組制作会社の代表が1年間協議してまとめた。制作会社の大半は中小企業で経営が苦しく、長時間の不規則勤務にもかかわらず「年収100万、200万円台の社員がぞろぞろいる」(大手プロダクション社長)という。ワーキングプア(働く貧困層)が社会問題になったこともあり、業界として改善を目指すことにした。
指針は「放送局は制作会社に対して取引上、優位な地位にあることが多い」と明記。(1)制作会社への発注書・契約書の交付と契約金額の記載を義務づけ(2)番組「買いたたき」を禁止(3)制作会社が持つ著作権の譲渡強要を禁止、の3点を盛り込んだ。
関係者によると、昨年の調査では全放送局の約6割が、少なくとも一部の書面を交付していなかった。総務省の調査では、制作会社が「書面を渡されても金額の記載がない」「金額は口頭で告げられるだけ」などと回答。今後は、下請け業者保護について定めた下請法に沿った発注書・契約書のひな型を用意し、書面を交付するよう求める。契約金の早期支払いも促す。
番組「買いたたき」は、テレビCM収入が落ち込み始めた一昨年後半から目立つという。総務省の調査では「一方的に単価引き下げを通告された」「値下げ圧力が強く、赤字で受注した」などの訴えが制作会社から寄せられた。「安い単価に変える時は番組内容やキャストも見直す」「番組種類ごとの単価表を放送局と制作会社が話し合って決める」ことを推奨する。
制作会社が番組内容を放送局に提案し、制作に責任を持つ場合は、制作会社に著作権があると判断される。ただ、この場合も放送局が著作権を握る例が少なくない。放送局が著作権譲渡を迫ることを「不当な経済上の利益の提供要請」として禁止する。
違反行為があると公正取引委員会が放送局に是正を勧告し、局名を公表する。総務省も、放送局に対して契約に関する調査を行う方針だ。(橋田正城)