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香川県立中央病院の体外受精ミス:「産みたい」涙の中絶 「我が子」と分からず

 ◇6週間後羊水検査「母体に負担」で断念

 高松市の香川県立中央病院で19日明らかになった、不妊治療中の体外受精卵の取り違え疑惑。「誰の受精卵か確認できないのか」。治療を受けた20代女性は昨秋、ミスを告げられて人工中絶したが、病院側は中絶の前、出産に希望をつなごうとする夫婦の質問に「(今から)6週間後なら分かるが、その時に中絶すると母体に負担が大きい」と説明していた。待ち望んだ妊娠だったのに……。夫婦は3日後、中絶を決意したという。【大久保昂、三上健太郎】

 「(受精卵を)誤った可能性が高い」。昨年11月7日、夫婦は中央病院で、担当医(61)や米沢優・産婦人科主任部長らから、取り違えの恐れがあることを告げられた。

 女性は中央病院の前にも約1年間、他の病院で不妊治療を受けていたという。ミスが起きたのは昨年4月に中央病院に来てから2度目の体外受精の時で、体内に受精卵を移植したのは初めてだった。妊娠の喜びをかき消され、夫は「いいかげんにしろ」と厳しい口調で詰め寄った。

 説明は約1時間に及んだ。「どちらの(カップルの)受精卵か分かる方法は」。子供を産みたいという思いから質問する夫婦に、担当医は「(今から)6週間後に羊水検査をすれば分かると言われているが、100%信用できる検査機関を私は知らない」と答えた。

 その場で女性は「100%自分の子供なら産みたい」と涙を見せたが、3日後、夫から病院に中絶することを決めたという電話連絡があった。中絶した時は妊娠9週目だった。

 県側はこの問題で19日夕、県庁で松本祐蔵院長、米沢部長、平川方久・県病院事業管理者が謝罪会見。ミス発覚後は「必ず作業は2人で行い、2人で確認する。培養シャーレに個人名を記入するなど徹底している」と説明したが、当時は体外受精のマニュアルに事故防止などの記述はなく、手順を記した程度だったと述べた。

 担当医は現在も治療に携わっており、処分については「規定に抵触するかどうか、今後検討する」と述べるにとどめた。「義務がないから」として、ミスを今も厚生労働省に報告していない。国だけでなく、他の患者にも説明する予定はない、としている。

 ◇「不誠実対応で提訴」夫婦の弁護士

 女性の夫はこの日夕、外出先から県内にある自宅に1人で帰宅。玄関前で毎日新聞の取材に対し、取り違えミスをした病院への思いなどを聞かれて、「今後主張することがあるかもしれないが、その時は弁護士を通じて言います」と答えた。

 県側が記者会見してミスを明らかにしたことについては「知らなかった」と述べ、会見について事前に相談はなかったとした。

 終始、硬い表情で言葉は少なく、「弁護士を通じてしかコメントできない。現時点では何も言えない」と繰り返し、自宅に入った。

 夫婦の弁護士はこの日、「県の不誠実な対応が提訴した理由」と話した。【吉田卓矢】

 ◇08年の妊娠確率、28%で平均並み--香川県立中央病院

 県立中央病院は1945(昭和20)年、日本医療団高松病院として設立され、3年後に県に移管。病床は一般626床と結核5床の計631床。診療科目は内科や産婦人科など23科で、99年に不妊相談センターを併設した。08年に体外受精の不妊治療を受けた患者は86人で、過去10年間では延べ702人にのぼる。08年の妊娠の確率は28・0%で、全国平均並みという。

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 ◆治療内容と経過◆

08年

 4月 9日 初診

 5月12日 人工授精

 7月23日 1回目の体外受精

 9月15日 2回目の体外受精

   18日 培養液を交換し、1段階目の受精卵移植実施。このときシャーレを取り違えた疑い

   20日 2段階目の受精卵移植

10月 7日 妊娠を確認

   16日 担当医がシャーレを取り違えたかもしれないと気付く

   31日 担当医が院長に報告

11月 7日 病院側が夫妻に経緯を説明し謝罪

   10日 院長も謝罪

    中旬 人工妊娠中絶

(香川県立中央病院発表資料を基に作成)

毎日新聞 2009年2月20日 大阪朝刊

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