香川県は19日、県立中央病院(高松市、松本祐蔵院長)で昨秋、不妊治療中に体外受精をした20代女性の子宮に、間違って別人の受精卵を戻した可能性があり、妊娠9週目で人工妊娠中絶をしたと発表した。院内のマニュアルには事故防止についての記述はなかった。病院は厚生労働省に報告していない。女性と夫は県側を相手に、約2000万円の損害賠償を求める訴訟を高松地裁に起こした。
記者会見した県側の説明では、産婦人科の男性担当医(61)が昨年9月20日、シャーレに入った受精卵を体内に戻し、10月7日に妊娠が確認された。シャーレには女性の名前は書いていなかった。
女性はそれまでの体外受精に失敗していたが、この時は経過が順調だった。このため担当医は不審に思い、10月16日に取り違えの可能性に気付き、月末に院長に報告した。病院側は11月7日、女性に経緯を説明して謝罪。担当医は、夫婦から「誰の受精卵か調べられないか」と尋ねられたが、「6週間後に羊水検査をすれば分かると言われているが、6週間後なら中絶は母体に負担が大きい」と答えた。女性は「100%自分の子供なら産みたい」と言ったが、同月中旬に人工中絶した。
米沢優・産婦人科主任部長(59)によると、担当医は受精卵を体内に戻す前、保存用の培養器から女性のシャーレを複数取り出し、いずれもふたを外して受精卵を検査する作業台に並べた。顕微鏡で調べるとほとんど状態は悪かった。顕微鏡の手前に一つ残っていたシャーレの受精卵を見ると、状態が良かった。このシャーレは、直前の検査で片付け忘れた別人のものだったとみられるが、担当医はそのまま培養器に保存し、その後、体内に戻してしまったという。
米沢主任部長は「他の病院などでDNA鑑定が可能か分からないが、うちの病院では9週目で鑑定して特定するのは不可能だった」と釈明した。病院は、人工中絶手術で取り出した子宮の内容物のDNA鑑定など、取り違えの最終確認はしなかったという。
担当医はこれまで約1000例を手がけるベテラン。【大久保昂】
毎日新聞 2009年2月19日 18時05分(最終更新 2月20日 2時23分)