「日本の植民地支配解放から63年余。被害者団体が一堂に会したのは今日が初めて。これからは声を一つにしよう」
5日、戦後補償問題に取り組む韓国の被害者団体の責任者24人が大邱市内で開いた初会合。韓国原爆被害者協会の金竜吉(キムヨンギル)会長(68)が訴える。金さんは各団体をまとめる総連合会の設立推進委員長に選ばれた。
日本政府や強制連行に関与した日本企業などを相手に、日本で起こした賠償請求訴訟はここ数年、相次いで敗訴が確定した。昨年6月、韓国政府が独自で支援する「国外強制動員犠牲者等支援法」が施行されたが、慰労金が支給される死傷者・遺族と、無事帰国したために慰労金の受領資格のない生存者が線引きされてしまった。
「結束が崩れた被害者」(原告団弁護士)をどうまとめればよいのか。1月、浮上したのが慰労金を得た被害者が1人100万ウォン(現行レートで約6万6000円)出資し、被害者全体のために使う共済組合設立案だった。だが、20億ウォン集める計画に反応は鈍く、出資者は30人程度。被害者団体は新たな策を練る必要に迫られた。
その直後のことだった。日韓国交樹立の際の協定に基づいて日本の経済協力資金で設立された韓国鉄鋼最大手ポスコ(旧・浦項製鉄)を相手取り、補償が妨害されたとして強制連行被害者が慰謝料を求めた訴訟で、ソウル高裁はポスコに被害者救済のため出資するよう和解勧告を出した。
ポスコは和解案を拒否したが、直後から主要被害者団体と接触し始めた。金会長は「被害者団体が一つになれば、ポスコは出資に動く」と期待。強制労働に関与した日本企業も参加する民間基金へと構想を膨らませる。
基金構想に距離を置く被害者団体もある。日本企業の参加も現実には難しい。だが金仁成(キムインソン)共済組合準備委員長(68)は「基金は未来への投資だ」と話す。被害者の高齢化が進む中、それは時間との闘いでもある。
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韓国の戦後補償運動の構図はどう変化しているのか。現状を報告する。【ソウル堀山明子】=つづく
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■ことば
国外に徴用・あっせんなどで連行された死傷者に最高2000万ウォン(約130万円)の慰労金、生存者に年間80万ウォン(約5万円)の医療支援金、日本での未払い賃金(1円=2000ウォン換算)の支給を定める。1月末現在、約8100件分が支給された。
毎日新聞 2009年2月19日 東京夕刊