行政改革を旗印にした市政に18日、名古屋地検特捜部の捜査のメスが入った。受託収賄容疑で逮捕された愛知県西尾市長の中村晃毅容疑者(71)は「ガラス張りの市政運営」を掲げる一方、個人の資金不足に悩んでいたとされる。市議らによると、有力後援者の一人だった贈賄側の人材派遣会社社長、村田英紀容疑者(67)も最近は中村容疑者と金銭を巡るトラブルになっていたという。
市議や元市幹部らによると、村田容疑者は中村容疑者が初当選した05年9月の市長選出馬時も、選挙資金を貸すなど全面的に支援していた。ベテラン市議の一人は「村田容疑者は中村市長とのパイプの太さを誇示していた」と話す。会社所有の土地に外国人研修センターの建設を計画した際も「市長が建築許可を取れるようにしてくれる」と信頼した様子だったという。
だがその後、2人の関係にひびが生じた。この市議は「村田容疑者は『選挙の際に金銭支援をしたのに何もやってくれない』と周囲に不満をもらしていた」と振り返る。別の市議も「村田容疑者からの借金を返済しないため、告発されたとうわさになった」と明かした。元市幹部は「市長選の費用を出してもらって、これを『返せ』『返さない』の騒ぎになっていた」と話す。
08年2月には市長就任以前の市税の滞納問題も発覚。こうした資金難について、中村容疑者が議員以外に主立った仕事を持たず、落選していた時期が長いため、と説明する市議もいる。
「若いころから政治を志し、熱意のある人だったのに本当に残念」。中村容疑者の選挙対策本部長を務めた岡田隆司市議会議長(69)は声を落とした。
中村容疑者は地元の高校を卒業後、農業を経て29歳で県議選に初出馬したが落選。だがその後、市議2期、県議3期を歴任し、県議会総務企画委員長や自民党県議団総務会長なども務めた。
市長給料を50%カット▽市役所新庁舎建設を凍結▽ガラス張りの市政運営--。市長選に初出馬した時、中村容疑者は市政改革の公約を掲げた。この時は本田忠彦市長(当時)に惜敗。4年後の市長選で新人候補5人による激戦を制した。
市長就任後は、市役所のホームページで公約の実現状況を公表。行政改革や福祉・市民サービスなど項目ごとに進ちょく状況を詳しく説明していた。
ホームページで、政治信条を「決断・実行・責任」と掲げていた中村容疑者。3月議会で、今夏に行われる市長選への出馬を表明する予定だったという。
中村容疑者が名古屋地検係官に付き添われて市庁舎を出たのは18日午後7時20分過ぎ。一斉にフラッシュを浴び、報道陣にもみくちゃにされた中村容疑者は「市民に話すことは」などの質問に対して終始無言で、険しい表情を崩さなかった。
大竹茂暉、神谷祥両副市長によると、その直前にいつもと変わらない様子で「出られなくなったら後は頼む」と言い残していたという。
特捜部の家宅捜索は同日午前に始まった。係官が市庁舎に次々に入ると、居合わせた職員は一様に、突然の捜索に戸惑いの表情を浮かべた。
捜索が重点的に行われたのは庁舎3階の秘書課の一角にある市長室。
午後から秘書課出入り口前に報道陣が集まり出し、テレビカメラが並んだ。
市役所を訪れた市民は「何かあったの」「どうしたの」などと不安な様子で職員に質問していた。
中村容疑者を乗せた地検の車両は国道23号から名古屋高速などを経て午後8時15分ごろ、名古屋市中区の名古屋地検が入る法務合同庁舎に入った。
西尾市役所では両副市長が同9時半から会見を開いた。大竹副市長は捜索場所について「秘書課と建設部関係」と説明したが、押収された書類については「今の段階では分かりません」。
その他の質問にも両副市長は「詳細はわかりません」「聞いていません」と硬い表情で繰り返した。
毎日新聞 2009年2月19日 中部朝刊