医師不足など地域医療の危機的な状況が問題となる中、千葉県東金市のNPO法人「地域医療を育てる会」と、兵庫県丹波市の「県立柏原(かいばら)病院の小児科を守る会」が共同で、絵本「くませんせいのSOS」(A5判、44ページ)を自費出版した。動物たちのやりとりを通し医師の過重労働の問題などを描く。PTAや地方自治体、医療関係者から注文が相次いでいる。【細川貴代】
絵本は、安易に夜間・休日の救急を利用する「コンビニ受診」の深刻化がテーマ。森にすむ動物たちは、病気になると物知りのやぎのおばあさんに相談していた。そこへ、医師の「くませんせい」が赴任すると、軽い症状でも昼夜を問わず受診。せんせいは過労で倒れ、それを契機に動物たちが受診のあり方を考え直す。
千葉県立東金病院と共同で若手医師の育成に取り組む「地域医療を育てる会」理事長の藤本晴枝さん(44)が絵本を作製。「絵本なら医療の抱える問題も広く伝えられると思った」と話す。モデルとなったのは、丹波市の母親たちで作る「県立柏原病院の小児科を守る会」の活動だ。
柏原病院では07年4月、小児科閉鎖の危機に直面し、現状を知った母親たちが会を結成。「夜間のコンビニ受診を控えよう」などと住民へ呼びかけ、夜間の小児科受診数は半減した。その後、活動に興味を持った医師が勤務を希望し、現在小児科医は5人に増えた。
絵本は地域医療の教材として、行政や医療関係者を中心に関心を集めている。愛媛県東部の四国中央市では95冊を購入し、市内の全保育所・幼稚園や児童クラブに配布した。
同県の人口10万人当たりの医師数は、県中心部の松山圏域以外は全国平均(217・5人=06年)を下回る。さらに04年からの臨床研修制度の導入で大学医局が各地の病院に派遣していた医師の引き揚げが始まり、同市の県立三島病院でも常勤医不在で小児科が昨年7月から休診中だ。
市の調査(07年度)では、市内の救急搬送患者の4割が軽症患者。症状に応じた医療機関のかかり方について、市は住民にチラシを配布。子どもを持つ親に考えてもらうため、絵本も活用することにした。同市の担当者は「子どもへの読み聞かせを通し、まずは親に地域医療の課題を知ってほしい」と期待する。
滋賀県でも計270冊を県内の各保健所や保育所などに配布。東金市でもPTAなどが活用している。
「守る会」代表の丹生(たんじょう)裕子さん(37)は「住民が現状を知り、何ができるかと問題意識を持って行動すれば地域医療は変わる」と話す。くませんせいのモデルになった、県立柏原病院小児科の和久祥三医長(42)は「守る会は医師側の発したSOSを受け止めて行動し、住民と医療者との仲介役になってくれた」と笑顔を見せた。
絵本は1冊500円。注文や問い合わせは「育てる会」ホームページ(http://www.geocities.jp/haruefjmt/index.html)へ。
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平日に近くの診療所に行けば済む症状なのに、「便利だから」とコンビニに行くような感覚で夜間や休日の救急医療を利用すること。夜間・休日の勤務医は通常より少ないため、重症患者の診療の妨げになるほか、医師が疲れ果て、医療崩壊の一因となると指摘されている。
毎日新聞 2009年2月19日 東京朝刊