新人医師に義務付けられている臨床研修について、厚生労働省と文部科学省の専門家検討会(座長、高久史麿・自治医大学長)は18日、研修プログラム弾力化による必修科目削減と、都道府県別の募集定員設定を柱とする見直しの提言をまとめた。今の医学部5年生が卒業する10年度から導入される見通しで、医師法で2年以上と定められた研修期間を実質1年に短縮することも可能になる。04年度から始まった制度は、わずか6年の運用で大きく転換する。
両省は必修科目削減によって、研修段階から現場の働き手になってもらい、医師不足解消につながることを期待する。だが、医師育成の観点から現場の反発も招きそうだ。
研修医は、以前は大半が出身大学に残ったが、現行制度では約半数が一般病院を研修先に選ぶ。新人医師を一元管理できなくなった大学病院が地域全体の医師配置に力を発揮できなくなったことが、医師不足を加速したと指摘されている。
提言では7診療科あった必修科目を、内科(6カ月以上)▽救急(3カ月以上)▽地域医療(1カ月以上)に削減。外科、精神科などは「選択必修」として2科目を経験させる。残りの約1年は、従来通り各診療科を回っても、特定の診療科だけを学ぶプログラムを組んでもいい。選択によっては2年目から、身分上は研修医ながら実質的に専門科の医師として働くことが可能になる。
また、各病院の募集定員合計が卒業生数よりはるかに多く、地方が軒並み定員割れの現状を是正するため、都道府県別に定員の上限を設けることも提案。各病院には都道府県枠の中で定員を割り振るが、大学病院には十分な数を与える調整が必要だとした。大幅に減らされたり研修の指定を取り消される病院には経過措置を設けるとした。
一方、必修が減っても診療能力の水準が落ちないよう、卒業前の医学部教育の見直しや研修医の到達度を評価する仕組みの工夫も求めた。【清水健二】
臨床研修制度の見直しは医師不足対策が最大の目的と言えるが、結論を急ぐあまり医療現場の広い賛同を得ておらず、実効性は不透明だ。
現行制度には、若手医師が安い労働力として酷使され、広い視野が育たない大学病院の弊害を除く狙いがあった。ある程度成功したが、大学病院の地域への医師派遣機能を弱める結果になった。
見直しの柱である(1)実質1年短縮の容認(2)定員の都道府県枠--には、研修医を都市部の総合病院から出身大学へ呼び戻す効果の期待がある。だが研修先を自由に希望できるという「パンドラの箱を開けた」(嘉山孝正・山形大医学部長)以上、大学病院に戻る保証はない。研修は大学で受けても、医局の体質が合わなければ2年後には離れてしまう。
しかも、研修の実質短縮で、総合的な診療能力が育たなければ本末転倒だ。検討会でも必修科の削減には最後まで反対意見があったが、事務局の国側は押し切った。
医療界は、卒業前の実習と卒業後の研修が連動した医師養成が必要だとする点では一致している。国は臨床経験の不足が問題とされる医学部教育の見直しにも着手したが、導入は早くて10年度の入学生からになる。日本病院会の堺常雄副会長が「臨床研修だけ手を付けるのは時期尚早ではないか」と指摘するように、拙速さは否めない。【清水健二】
毎日新聞 2009年2月18日 20時24分(最終更新 2月18日 23時44分)