病院統合問題で、長崎市の田上富久市長が16日、県庁で金子原二郎知事に検討結果を回答した際の主なやり取りは次の通り。
市長(以下、市) 知事に提案していただき、真摯(しんし)に検討した。結論として市の見直し案となった。
知事(以下、県) どういう理由でなったの?
市 JR貨物との(統合病院用地)交渉の行方が見通せない。指定管理者を日赤にすることや原爆病院のあり方も議論が必要など、時間を要し、内容が確定できない要素がある。一刻も早く市民に新しい病院を開院したい。
県 最終決定は市長だから、非常に残念だがやむを得ない。ただ、非常に誤解されているのは、私たちは市民病院のために提案したんだ。決してごり押しではない。お互いオープンで議論し、考え方が県民、市民に見えるのかと思っていた。そういう意味で私は(市役所に)出かけていったんですよ。
市 ごり押しとは全く思っていません。対立構図のようにとられたが、それも一切無い。それぞれの立場で意見を出し合った。水面下でさまざまな県との作業があった。
県 見解の相違かもしれないが、水面下だけでなく、本来ならオープンに議論した方が分かりやすかった。もう一つは、不確定要素としてJR貨物と日赤の話が出たが、私は責任を持ってJR貨物と話をしているんです。一県の知事が交渉しているんだから、これを不確定ととらえるのはいかがなものか。正直に言って、私は立場がないですね。
市 ここまで話を詰めていただいたことは感謝している。ただ中身の交渉はこれからなのも事実です。
県 私たちは原爆病院をなくすなんてひと言も言ってない。より高度な原爆病院に特化する考えだった。そういうことが市のPT(プロジェクトチーム)で議論され、それが外に出ていれば被爆者もある程度理解したんじゃないか。まあ、そちらで決めたことですから、了としますが、全国で公立病院の経営が大変だ。このままいったら赤字がどんどん増えるんじゃないか。
市 今も市民病院は黒字ですので、誤解のないようにお願いしたい。
県 黒字といっても一般会計から持ち出ししているんでしょ。大変だと思うけど、その方がいいと言うんだから言いようがない。(新市民病院の建設用地は)敷地的に随分狭い。原爆病院、市民病院、大学病院と機能分散したら大変だ。ある程度集中したほうがより機能の高いものができるんじゃないか。まあ、いろいろと意見が違うから。
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■解説
長崎市の新市立市民病院建設について、田上富久市長は、市病院局が先月出した現地建て替えの「見直し案」を選んだ。これまでの経緯を見ると、この選択は当然だったとも言える。
長崎大の市への病院統合提言から始まり、金子原二郎知事による異例の“直談判”など、問題は大もめにもめた。市はプロジェクトチームを作るなどし、市議会も独自調査を進めた。
だが、田上市長に届いたのは「見直し案」であり、「県案はハードルが高い」という市議会提言だった。さらに被爆者団体も「病院統合に反対する」と表明した。この状況下で田上市長が統合案を受け入れることはあり得なかったのではないか。
そもそも、長崎大、県は、もっと早い段階で統合案を提言できなかったか。地域医療を取り巻く問題は、以前から叫ばれていたのではないか。市にとって「降ってわいた問題」(市幹部)と取られても仕方なかった面もあるだろう。
今回の問題で、県、長崎大と、長崎市との間にしこりが生まれたことは否定できない。問題を、患者、市民の不利益につなげないためにも、県、長崎大は、市への今後の協力を惜しんではならない。
本当に見直し案選択が正しかったかどうかも、これからだ。新病院開院時の医師確保や採算性の問題など課題も山積している。田上市長の手腕が本当に問われるのはこれからだと言える。【下原知広】
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病床数 506
延べ床面積 3万5420平方メートル
建設地 現市民病院及び隣接地
建設費 156億円(病院本体)
運営方式 公設公営
医師 142人
看護師 415人
救命救急センター あり
毎日新聞 2009年2月17日 地方版