長崎市の新市立市民病院と日赤長崎原爆病院の統合問題で、田上富久市長は16日、金子原二郎知事や市議会各派代表者会議に対し、県案ではなく、市病院局が示した「見直し案」で新市立病院を建設することを伝えた。昨年11月に金子知事から両病院の統合を直談判されたあと、約2カ月半にわたる検証結果を基に判断した。しかし、長崎市にとっては、医師確保など克服すべき課題が山積しているうえ、県の統合案を拒否したことで県や長崎大との関係にしこりが残らないか、懸念される。【下原知広、宮下正己】
田上市長はこの日、市議会の各派代表者会議で結論を伝えたあと、県庁に行き、同様に金子知事に検討結果を回答した。このあと、市役所に戻り、記者会見した。
それによると、市の見直し案に決めた理由について(1)県案はJR貨物や日本赤十字社との交渉が必要だが、時間がどれくらいかかるのかわからず、見通しが立たない(2)運営について指定管理者を日本赤十字社に絞るには議論が必要(3)原爆病院のあり方は市民議論が必要--などと指摘。2013年度の開院目標を考えると、県案は不確実な要素が多いと判断したという。
一方、医師確保について田上市長は「(市の前計画、市の見直し案、県の統合案の)3案のうち、どれをとっても大きな課題。国の方でも医師不足をカバーする案が練られている。市として大学と連携しながら、東京にいる長崎市出身の医師に戻ってきてもらい、研修医を集めるためのプログラムを充実するなど、できる限りの取り組みをしたい」などと語った。
しかし、それが実現できるかどうかの裏付けはないのが実情で、田上市長は「県や大学と連携して病院全体が完成する15年度までに医師確保に努める」と話すにとどまった。
金子知事が田上市長に異例の直談判までした病院統合問題は、田上市長が県の統合案を拒否したことで、知事の「強攻策」は空振りに終わった。知事は「(市との関係で)ギクシャクはない。ほかの問題に影響することはまったくない」と強調したが、不満も飛び出し、複雑な心境をのぞかせた。
田上市長が県庁を訪れ、検討結果を回答した際、知事は「非常に残念だがやむを得ない」と述べた。しかし、田上市長が県提案を断った理由について、県の用地交渉や日赤との協議の不確定さを挙げると、「一県の知事が交渉しているんだから、不確定というのはいかがなものか。私は立場がない」などと不快感をあらわにした。
統合問題は、知事が昨年10月に事実上断念しながら、その後に直談判で田上市長に再要請したことで注目された。組合交渉など田上市長にはハードルが高く、世論を見方につけることで県案の優位性を立証しようとの目論見だったが、逆に知事の手法を「強引」と見る向きも少なくなかった。
田上市長の回答後に会見した知事は「本質論を議論しないまま先に感情論が立ったことは反省している。私たちは総攻撃を受けている」と発言。「県案と市案のどっちがいいのか十分に議論すれば分かってくる。そういう場がほしかった」と悔しさもにじませた。
そのうえで知事は「今後いろんな問題について市と十分に協議しながら解決していきたい。(市とは)しこりも何もない。あれだけ(統合に)反対されたら、田上さんが(反対派を)説得するなんて難しい」と理解も示した。
病院統合問題で、長崎大の片峰茂学長は、長崎市が統合案を選ばなかったことについて、コメントを出した。その中で、片峰学長は「(長崎大は)市民病院と原爆病院を統合した新病院建設案への支持を表明してきました。その意味では、今回の市の決断は大学として極めて残念ですが、市としても慎重な検討と熟慮を重ねられた結果でしょうから、厳粛に受け止めたいと思います」とした。
その上で、病院統合を巡るこれまでの議論から、地域医療が抱えるさまざまの課題が「ある程度明らかにされた」とし、「市にはこの間の議論を今後の新市民病院建設計画の中に反映していただきたい」と改めて要望した。
〔長崎版〕
毎日新聞 2009年2月17日 地方版