医師不足の原因ともいわれる新人医師の臨床研修制度を見直す動きが、現場で波紋を広げている。厚生労働省と文部科学省は10年度から、人手確保のため研修期間の実質1年短縮を認める意向で、18日にも専門家検討会で結論をまとめる。しかし「1年で十分に学べるのか」と懸念する医師は多く、見直しの目的である医師不足解消にも、効果を疑問視する声が出ている。【清水健二、河内敏康】
「専攻する気のない科の研修は、意欲をそぐ」(大学病院医師)
「やる気がない研修医を甘やかして制度を変えていいのか」(患者団体代表)
今月2日の検討会は、各委員の主張が激しくぶつかった。焦点は2年間で7診療科を回る現行制度の是非。1年短縮の賛成派は「必修科目を減らし、残りは専門分野で学んだ方がいい」、反対派は「診療能力向上の理念に逆行する」と、議論は平行線をたどった。
新人医師の多くはかつて、出身大学の医局(診療科)に所属し、雑用に追われ、専門以外の診療能力も育ちにくい状況だった。これを是正するために現行制度が導入された。厚労省研究班の調査では、研修医が2年で経験する症例数は徐々に増えており、内容に過半数が満足している。
だが厚労省は、効果の検証をしないまま、研修短縮ありきで見直しを始めた。舛添要一厚労相は早くから「2年を1年に」と話し、全国の病院の約6割が加入する四病院団体協議会などの反対意見は、事務局作成の「たたき台」に反映されなかった。
期間短縮に強い危機感を抱くのが、必修から外される診療科の医師だ。日本精神神経学会の小島卓也理事長は「内科や外科の患者もうつ病などを併発するリスクは高く、どの専門でも精神科の研修は必要」と力説する。
一方、研修が短くなれば地域の中核の大学病院に早く若手医師が戻ってくる、という厚労省の思惑にも、疑問の声が上がる。関東の大学の小児科講師は「研修医は都市部の大病院を選ぶ傾向が強く、期間や定員の変更では大学病院に残らない。地域医療を支える自負心を育てる教育が重要だ」と指摘。岩手医科大の小川彰学長も、見直しには賛成しつつ「診療科別の定員設定に踏み込まないと、産科など労働環境の厳しい診療科の医師不足は続く」と予測する。
大学医学部の卒業生は毎年約8000人。その数の新人医師を働き手に組み入れても医師不足の根本解決にはならず、埼玉県済生会栗橋病院の本田宏副院長は「医師の絶対数を増やし、地域の実情に応じた細かい対策を取るべきだ」と訴える。
医師法に基づき04年度から現行制度が始まり、原則1年目に内科(6カ月以上)、外科、救急・麻酔科を、2年目に小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療(各1カ月以上)を学ぶ。見直し案は、必修を内科(6カ月以上)、救急(3カ月以上)、地域医療(1カ月以上)のみとした。研修先は自由に希望できるが、地方や大学病院を選ぶ研修医が少なく、見直し案では都道府県ごとに募集定員を設けるとしている。
毎日新聞 2009年2月17日 12時30分