「近くに総合病院があるのは何より安心。もし病院がなくなったら、市外への通院なんて無理」
厳冬期を迎えた留萌市。市立病院(同市東雲町)の外来診療に訪れた市内の独り暮らしの70代女性は不安そうに語る。08年度末で35億円に達する累積赤字が市財政を破綻(はたん)寸前に追い込んでいるからだ。
同病院は01年の新築・移転を機に健全経営を目指したが、診療報酬引き下げなどの影響で02年度には6億6900万円の赤字が発生。その後も診療報酬の引き下げが続いたうえ、臨床研修制度の改正で全国的に医師不足が深刻化。同病院でも03年に34人いた常勤医が25人に減った。
さらに重くのしかかるのが、留萌管内をカバーする第2次医療圏のセンター病院という位置付けだ。09年度は経費削減のため形成外科の休診が濃厚になっているものの、不採算部門の救急、小児、産婦人科を閉鎖するわけにもいかず、負債が膨らみ続ける。
隣接する増毛町の医療関係者は「市立病院がなくなれば地域医療は崩壊する」と懸念するが、留萌市が周辺町村に病院運営費の負担を求める交渉は難航。一方で同市が1月に策定した財政健全化計画には市税の引き上げや温水プールの休止などの行政サービス縮減が盛り込まれた。病院の負担が生活を圧迫する現状が市民をいら立たせ「病院は民間に売ればいい」などの声もくすぶる。
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留萌市立病院に限らず、道内80市町が運営する93の自治体病院は地域の基幹病院として民間が敬遠する不採算部門を担うケースが多い。医師不足や患者減少もあって経営は悪化傾向にあり、全体の約7割が赤字。07年度末の累積赤字は合計1460億円に上り、留萌市の27億円のほか、函館市38億円▽小樽市37億円▽赤平市29億円▽釧路市24億円▽美唄市23億円と財政難に苦しむ自治体がずらりと並ぶ。
国が07年12月に策定した「公立病院改革ガイドライン」は病床利用率の低い病院に対し病床数の削減や診療所化などの規模縮小・合理化を求めており、道も昨年1月、「自治体病院等広域化・連携構想」を策定。自治体病院の機能を近隣自治体同士で集約するよう提案している。
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「財政難の原因は行政の見通しの甘さにある。しかし、批判は簡単。市民も病院の現状を知ろうとしていなかった」
窮地の留萌市立病院を救おうと08年5月に結成された市民団体「留萌がんばるかい」(会員19人)の代表、沢田知明さん(41)=元留萌青年会議所理事長=は市立病院の存在を「街の魅力」として再評価するよう市民に呼びかける。
病気になると札幌や旭川の総合病院を受診する市民も多く、そうした傾向が病院の赤字に拍車をかけていると考えた沢田さんたちは独自の広報紙を08年10、12月の2回、各1万2900部作成し新聞折り込みで配布した。さらに会員の人脈を頼りに研修医を1人確保。札幌の看護学生を対象に見学ツアーを企画したり、道立留萌高校に説明に行くなど看護師確保にも奔走している。
地域医療を住民の手で守ろうとする新たな取り組みだ。=つづく
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■ことば
総務省が07年12月、病院事業を行う市町村に対し(1)経営の効率化(2)ほかの自治体病院との統廃合(集約化)(3)民間譲渡など経営形態の見直し--などの「改革プラン」を08年度末までに策定するよう求めた指針。プランを策定すれば、累積債務について返済期間7年間で無利子の「病院特例債」への借り換えが認められるメリットもある。対象となる道内80市町のうち、08年12月末現在6市町が策定済みで、残る市町も年度内に策定する見通し。ただ、指針が求める集約化に対しては、住民の通院が難しくなる地域に慎重論が根強い。
毎日新聞 2009年2月17日 地方版