ここから本文です。現在の位置は トップ > 大盛り北海道 > 社会 > 記事です。

大盛り北海道

社会

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

医療クライシス:北海道緊急事態/3 揺らぐ救急体制 /北海道

 ◇搬送高速化へ、ドクターヘリ増機

 ◇「激務」と「撤退」の悪循環

 救急車で運ばれた高齢の女性は激しい頭痛を訴えた。今月9日午後10時ごろ、「札幌東徳洲会病院」(札幌市東区)。会話はできるものの日付を思い出せないなど意識障害が見られる。「ただの頭痛じゃない」。救急総合診療部の松田知倫医師(30)はクモ膜下出血と診断し、脳外科の緊急手術を手配した。隣の診察ブースでは、泥酔して転倒したという男性患者が「帰らせろ」と看護師にわめき散らしていた。

 当直医は午前9時から日中の勤務につき、そのまま夜間の当直に入る。合間に1~2時間の仮眠をとって翌日の午後6時まで働く。月5回の当直勤務につくという松田医師は「救急当番日の当直勤務は全く仮眠が取れないこともある」とこぼす。同病院が年間に受け入れる救急搬送数は01~06年度は4000件前後で推移していたが、07年度は5572件に急増し、08年度は7500件を超える見通しだ。

 一方で札幌市の救急車出動件数は05年の7万5939件をピークに減少しており、08年は6万9875件。しかし、救急輪番制に参加する病院数が現行制度の始まった04年の77から08年は58に減ったため、救急搬送が特定の病院に集中するようになっている。清水洋三院長は「このペースで急患が増え続ければ、拒否せざるを得ない場面が出てくるかもしれない」と危機感を募らせる。

     ◇

 札幌市消防局が07年に搬送した入院期間3週間以上の重症患者2553人のうち、受け入れを2回以上拒否された患者は66人に上り、6、7回も断られて搬送先が決まったケースもあった。この状況は、札幌の総合病院に重篤な患者を受け入れてもらうことの多い近隣自治体の住民にも不安を広げている。

 24時間救急対応している「おたる北脳神経外科」(小樽市)に重い心臓疾患の50代男性が運び込まれたのは昨年3月の日曜早朝。遠山義浩院長は電話で転送先を探したが、「ICU(集中治療室)が満床」「手術スタッフが足りない」などの理由で4病院に断られ、札幌市中央区の病院から「受け入れ可能」の返事をもらうまで約1時間を要した。男性は約10時間に及ぶ手術で命を取り留めたが、遠山院長は「救急医療はいつ崩壊してもおかしくない。まるでロシアンルーレットだ」と指摘する。

     ◇

 札幌で救急当番病院からの撤退が相次いでいる背景にあるのは、やはり外科など激務の診療科を中心とした医師不足だ。撤退がさらなる激務を招く悪循環。地方の医師不足はさらに深刻で、特に北海道は国土の22%を占める広大な面積が救急医療体制の足かせとなる。そのため導入が進められているのが、医師が治療しながら高速で搬送できるドクターヘリだ。

 現在、道内で配備されているのは道央圏の1機だけだが、道は道北、道東圏に1機ずつ計2機を追加配備する経費5億円を09年度予算案に計上する方針。「旭川赤十字病院」(旭川市)の住田臣造副院長は「(救急搬送に時間がかからなければ)助けられた患者は年間10人以上はいる。今まで救えなかった命を救うことができる」と期待を寄せる。=つづく

==============

 ■ことば

 ◇救急医療体制

 救急医療は病状やけがの程度に応じて、入院の必要がない軽症患者(1次救急)▽入院の必要な重症患者(2次救急)▽入院や手術が必要な重篤患者(3次救急)の3段階に分けられ、救急隊が搬送先を決定する。道内の1次救急の医療機関数は1643施設(08年3月現在)で近年、大きな変動はないが、2次救急は医師不足の影響を受け03年より22施設減少し291施設(08年10月現在)。3次救急を担う救命救急センターは道央圏に4施設、残る5医療圏(道南、道北、オホーツク、十勝、釧路・根室)に各1施設ある。

毎日新聞 2009年2月16日 地方版

社会 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報

郷土料理百選