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行政委員―報酬や人事を見直そう

 行政委員とは何か、どれほどの人が知っているだろう。自治体には選挙管理委員会など幾つかの行政委員会を設ける義務がある。準司法的な役割もあり、首長から独立した行政機関として公正で中立な判断が期待されている。

 行政委員の報酬については、地方自治法で勤務日数に応じて支給することになっているが、「条例で特別の定めができる」との規定もある。

 そうした委員報酬をめぐる裁判で、勤務日数にかかわらず月額制で支給しているのは地方自治法に違反するとして、大津地裁は先月22日、滋賀県に支出の差し止めを命じた。

 対象になったのは選挙管理、労働、収用の3委員会の委員報酬だ。滋賀県は条例で勤務日数に関係なく1人当たり月額約20万円を支給している。

 委員は非常勤職員であり、その報酬に常勤職員のような生活給の意味合いはない。勤務実績に応じた給付だ。勤務日数にかかわらず「特別の定め」で例外的な扱いができるのは、勤務実態が常勤職員と異ならない場合に限られる――。判決はそう指摘したうえで、委員の勤務実態を検討した。

 たとえば収用委員の場合、月2回の定例会への出席と裁決申請事件の審理が主な職務だ。裁決申請は07年度までの8年間に計13件、07年度はゼロだった。そんな実態をふまえ、判決は「到底常勤の職員と異ならないとはいえず、県条例は法の趣旨に反し効力を有しない」とした。立法の趣旨を適正にとらえた判断だろう。

 行政委員の報酬を条例で月額制にしているのは、なにも滋賀県だけのことではない。選挙管理、労働の両委員では全都道府県が月額制を採用し、収用委員でも日額制をとる山梨など4県を除けばすべて月額制だ。

 収用委員の例でみると、日額制の山梨県で07年度に委員7人に支給した報酬総額は8万1900円なのに対し、滋賀県は同じ人数の委員に計1725万6千円を支払った。同年度に扱った裁決申請は山梨県で1件、滋賀県では0件である。月額制は無駄遣いだと言われても、仕方あるまい。

 もうひとつ今回の裁判で見えてきたのは、委員会によっては委員のポストが特定の団体や県議OBらの指定席になっていることだ。これでは、なれ合いになって行政側に有利な判断に傾きかねないだろう。報酬とともに、人事の見直しも求めたい。

 都道府県にはほかにも、人事、教育、公安などの委員がおり、市町村にも独自の委員がいる。その多くが月額制をとっている。

 「是正すれば、全国の地方自治体で100億円の経費削減になる」と原告側は試算している。財政難に直面する自治体にとり、急いで見直すべき問題であることは明白だ。

衛星の衝突―宇宙ゴミの恐怖が現実に

 あの広大な宇宙で、と驚いた人も多かったに違いない。

 シベリア上空約800キロの宇宙空間で先週、二つの人工衛星が出合い頭に衝突した。宇宙時代が幕を開けて半世紀、人工衛星同士による初めての宇宙の「交通事故」である。

 一方はすでに任務を終えたロシアの軍事通信衛星、もう一方は米国の現役の商用通信衛星だ。1トンもある「粗大ゴミ」が約500キロの衛星とぶつかり、ともに破壊された。

 宇宙空間には、今回のような用済みの衛星や、ロケットの燃えがら、あるいは宇宙飛行士が落とした工具まで、大小さまざまな宇宙ゴミが大量に飛び交っている。すでに小さな衝突は起きており、いずれこんな大きな事故も起きるのでは、と心配されていた。

 宇宙のゴミ対策は、もはや待ったなしの課題だ。

 小さいゴミも油断はできない。1センチほどでも、秒速数キロもの高速でぶつかれば衛星を破壊する威力がある。

 高度400キロの宇宙に浮かぶ国際宇宙ステーションには人が常時滞在し、日本人宇宙飛行士の若田光一さんももうすぐ加わる。ゴミとの衝突は、彼らの命を脅かしかねない。

 まず必要なのは宇宙ゴミの監視だ。人工衛星などにぶつかる危険が早めにわかれば、回避させることもできる。

 宇宙ゴミは、米国の宇宙監視センターが追跡している10センチ以上のものだけで約1万3千個にのぼる。それより小さいものを含めれば、何千万個にもなると推測される。

 日本も、米国の情報をもとに民間の観測結果を合わせて、衛星への危険を分析している。ただ、まだ手探りの状態だ。より早く、より正確にゴミの危険を判断できるよう、国際的な協力態勢を築きたい。

 また、なるべくゴミを出さないのが大事なのは、地上と同じことだ。

 衛星の設計や打ち上げ、衛星の寿命が尽きた後など、段階ごとにゴミを出さないためのガイドラインがある。用済みの衛星をできるだけ早く落下させるなど、さらにゴミを減らす技術開発の余地もあるのではないか。

 今回のような事故が深刻なのは、ゴミを一挙に増やすからでもある。その数はまだわからないが、周辺に大量の破片がばらまかれたはずだ。

 07年に世界を驚かせた中国による古い衛星の破壊実験では、2千個ものゴミがまき散らされた。昨年末にこのうちの1個が欧州の気象衛星に接近し、関係者をひやりとさせた。また昨年には米国も古い衛星を破壊した。

 こうした軍事実験は、宇宙を軍拡の場にするだけでなく、ゴミを増やすことによっても、宇宙をいっそう危険な場所にする。禁止に向けた働きかけを改めて強めたい。

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