不法滞在容疑者 入居契約巡り 日本人名義 仲介が横行
首都圏で27人逮捕
不法滞在で住居を借りることのできない外国人に、日本人の名義人をあっせんする「名義人ビジネス」が横行している。神奈川県警が強制捜査に乗り出した事件では、これまでに首都圏の1都3県に住む外国人27人が逮捕された。偽造パスポートで入国し、偽の就労証明を使って潜伏する実態が明るみに出てきた。
(三輪さち子)
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県警への朝日新聞の取材では、一連の捜査のきっかけとなったのは、空き巣を60件以上繰り返した中国人の男(33)を昨年6月に逮捕したことだった。横浜市内にある男の部屋の賃貸契約書に書かれていたのは日本人の名前だった。
その後の捜査で、「保証人!¥6000〜名義人!」といった広告を中国語の新聞に出していた人物として東京・池袋の貿易会社役員伊藤静朗被告(41)が浮上。名義人役の日本人に収入があるように見せかける目的で源泉徴収票を偽造していたとして逮捕・起訴された。
県警によると、伊藤被告は、広告を見て電話をかけてきた外国人に日本人を紹介。さらに、不動産会社に提出する源泉徴収票には架空の会社の社印を押し、不動産会社からの電話の問い合わせには、電話取次ぎサービスを利用して架空の会社が実在するように見せかけた。
こうした手口で06年11月から少なくとも200件の賃貸契約を成立させ、外国人側から1カ月分の家賃の80%を手数料としてとることで総額約1400万円の利益を得ていた。「2年ほど前にスポーツ紙で『名義人やります』という広告を見て思いついた」と供述しているという。
県警は1月、東京、神奈川、千葉、埼玉のマンション47カ所を家宅捜索し、中国人23人を含む外国人27人を主に入管法違反(不法滞在)容疑で逮捕した。このうち千葉県市川市のマンションの1室には中国人の男3人がおり、全員が不法滞在。盗品と思われるパソコンやデジカメ、、窓を焼き切るためとみられるバーナーが見つかった。神奈川県大和市では、覚せい剤を所持していたとしてイラン人を逮捕。密売人とみられるという。
一連の捜索では、偽造したパスポートや外国人登録証、就労証明書も見つかった。逮捕者は27~47歳で、スナックや居酒屋、建設現場などで働いていた者もいたが、半数は仕事に就いていた形跡がない。しかし、家賃の滞納もトラブルもなく暮らしていたという。県警は彼らがどう入国し、どう生活していたかをさらに調べている。
「リスク承知」広告続々
「安い!早い!名義人、保証人」「住房 店舗 保証人」−伊藤被告が利用していた中国語新聞は今でもこうした広告が並ぶ。発効する池袋の新聞社によると、現在は無料で約6万部が出ているという。広告を出している会社に電話をかけてきいてみた。ある社は「在留資格があっても、日本人の保証人がいないと100%断られる。知り合いから頼まれたのをきっかけに保証人を紹介する商売を始めたと説明。別の社は「客の中には不法入国の人もいるだろうし、部屋をまた貸しする人もいる。犯罪に巻き込まれるリスクは承知している」と話す。
他人の名義で入居することは法律違反にならないのだろうか。賃貸借契約に詳しい延命政之弁護士(横浜弁護士会)は、「民法で禁止されている無断転貸にあたり、貸主から契約を解除できる原因になりうる。しかし、刑法の詐欺罪については貸主の損害がはっきりせず、罪に問うだけの違法性が低いのではないか」とみる。
不法滞在者をめぐっては、法務省入国管理局は04年から半減計画を実施。入国審査を厳しくし、摘発を強化した。その結果、4年間で約7万人減の15万人までに減った。しかし、入国管理局は「最近は摘発逃れの手口が巧妙になっている」と安心していない。