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共生へのキックオフ

鼎談・2002W杯 ホスト都市の韓日・在日<大阪>



金団長

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共生大きく進展する契機に

 開幕が目前に迫った韓日共催のW杯。両チームとも仕上がりは順調だ。何としても悲願の1勝を勝ち取り、大会を盛り上げてほしい。W杯鼎談企画のトリを飾るのは、在日同胞が一番多く住む大阪市。磯村隆文市長と駐大阪韓国総領事館の兪炳宇総領事、民団大阪府本部の金昌植団長に、W杯と在日同胞の和合、今後の韓日関係のあり方について語っていただいた。


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大阪のコンセプト
「同胞」が最も多く住む地域…金
頭ではなく心の問題として…磯村

 金 W杯の開催地に全国で一番早く名乗りをあげたのが大阪市だと聞いているが、その時点で韓日共催をどう受け止めたのか。また、そもそも大阪にW杯を誘致しようとしたのはなぜか。

 磯村 国際集客都市の大阪には、「スポーツパラダイス大阪」というコンセプトがある。これは市民全員がスポーツを楽しむと同時に、世界最高レベルのスポーツを観戦して楽しむということだ。日韓共催に決まった時、日本側には戸惑いがあったのは事実だが、大阪の場合はむしろその方がおもしろいかもしれないと思った。「在日」の方々がこんなに多くいる訳だから、大阪は共同開催ということの意義を一層高めることを念頭に置いて準備を進めてきた。

磯村市長

 金 大阪は全国で一番在日同胞が多く住む地域だ。その同胞が南北に分かれている現状では、いろいろ神経を使うことも多かったと思う。昨年3月25日、大阪府や大阪市の協力によって大阪ドームで開かれた「大阪ハナ・マトゥリ」では、同胞同士の民族和合・交流と日本人との共生が大きく進展する契機になった。

 磯村 私が子どもの頃、通っていた生野区の小学校ではクラス50人のうち8人くらいまでが朝鮮半島出身だった。けんかもしたがよく一緒に遊んだものだ。ところが、朝鮮戦争を境に、南北どちらに所属するかという政治的な問題が出てきた。同じ済州島出身の人たちが南北に分かれるというのは、日本人には想像もつかないことだったし、国に帰った人は別にして、日本に残った人たちの間にいまだにすっきりしないものが残っているのは残念だ。

 金 私たち在日同胞は韓日の不幸な歴史の結果、日本で少数民族として生活してきた。日本の中にも今も38度線が引かれているのは慙愧に耐えないと思うのが同胞の偽らざる心情だ。

 磯村 金大中大統領が北朝鮮に行って北のトップと握手をした。頭の問題ではなく、ハートの問題として、大阪なら南北の人が昔のようにつきあいができるはずだと、考えは違っても同じ人間だという確信から「ハナ・マトゥリ」を成功させる自信があった。在日が一つになる祭を主体的に行うのは「在日」の皆さんだが、府や市がお役に立つなら国際交流とか世界平和という四角張った理屈はいらない。大阪は都市としての独自の考えで、昔から自分たちで考え、いいと思ったことは実施してきた所だ。上海と姉妹都市になっているが、これも最初の人的交流は日中国交正常化前のことだった。


兪総領事

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共同参観団への胎動
韓日共に勝ち進んでほしい…磯村
同胞和合のいいきっかけに…兪

 金 4月に平壌を訪問し、「アリラン祭」を見たが、賛否両論があった。しかし、「南北の統一は大阪から」という府知事や市長の言葉もあったように、民団の幹部として初めての訪問をしてよかったと思う。北の幹部も日本で一番大きい地方本部の大阪での同胞和合を望んでいたし、「ハナ・マトゥリ」のビデオを見ており、府や市に感謝をしていた。同胞和合の障害になっている「壁」を一度越えると、全国にも好影響を与える。総連大阪本部の呉秀珍委員長とも「ハナ・マトゥリの精神を後退させてはならない」と意見が一致している。W杯の韓国での試合に総連の幹部が参観することになった。

 兪 総連同胞がどれくらい韓国を訪問するかわからないが、大変結構なことだ。同胞和合のいいきっかけになればと思う。昨年の米国同時多発テロ以降、世界中が不安感を拭いきれない状況が続いているが、W杯を成功させることは世界の人たちに安心感を与える絶好のチャンスだと受けとめている。それが今回のW杯で一番大事なことだ。88年のソウル五輪のスローガンは「世界への躍進」だったが、今回は「世界の一流国家として更なる跳躍のチャンス」という意気込みで準備を進めてきた。

 磯村 W杯はある意味では五輪を超える世紀のイベントだと思う。日韓それぞれ10カ所の都市がそれぞれの個性を発揮して成功させればいい。マスコミがフーリガンのことを必要以上に取りあげているきらいがあるが、果たして遠い日本までやって来るだろうか。とはいえ、W杯を積極的に盛り上げる仕事と同時に、受け身の立場でトラブルが起こらないように万全の体制を組んできた。

 兪 W杯は経済効果も期待できるが、ここ6年間の準備期間の中で、韓国と日本の間であらゆる分野で協力関係を築いてきたというのが大変重要な経験、実績になった。大会を成功させるためには、組織運営だけでなく、人の往来を円滑にするためのいろんな措置、例えば警備の問題や安全対策、相互理解を深めるための文化交流が必要だ。

 金 民団では府下36支部に広報バナーや大阪市のW杯機関紙の「オーレ」を配布し、施工への機運を盛り上げるお手伝いをしてきた。また、2000年の夏に開催された韓日高校サッカー大会をはじめ、韓日友好大会には民団として積極的に協力してきた。祖国である韓国と、生まれ育った日本がともに手を取り、世界最大級のイベントへの一助を地域住民としてできるというのは共生社会そのものだからだ。

 磯村 突発事態が起こらない限り、成功は間違いなしだ。開催国の日本と韓国のチームはぜひ勝ち進んでほしい。


左から兪炳宇駐大阪総領事・
磯村隆文大阪市長・
金昌植民団大阪本部団長

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ホスピタリティ
目先の勝敗にこだわらずに…兪
自治に「外国籍」受け入れを…金

 磯村 江戸という町は半分は侍、半分は町人の町だったが、参勤交代などで常時4分の3を侍が占めていた。道で侍に会って刀が触れると、「無礼者」として斬ることができた。町人がびくびくしていた町だ。それに比して、大阪は人口が10万人の時代に、侍はわずか500人くらいで、町人が自治をつかさどる「年寄り」を選んで、町人自治をしていた。だから自らが守るルールを自らがつくってきた。お上から押さえられることはない風土だ。

 金 大阪市は、全国でも先陣を切って「国籍条項」の撤廃、「外国籍高齢者、障害者給付金」の支給、「外国籍住民の施策会議」の開設、議会においては「地方参政権の意見書」の採択をしてきた。それを一歩進めて、自分たちがルールを決めて守るという自治のワクに一日も早く外国籍住民を受け入れてほしい。

 磯村 大阪は外国人と日本人の垣根がない地域だ。住民投票のような形は問題ないと思うが、地方参政権などは国の立法政策に関わる問題であり、自治体レベルではどうにもならない問題も出てくる。これまでの国における幅広い議論などを踏まえ、慎重を期してまいりたい。

 兪 個人の友情も国と国との関係も経験の積み重ねが重要だ。ぶつかりあい、つきあいながら協力関係を築き上げることが大事だ。W杯では目先の勝敗にこだわることなく、在日同胞と日本人、韓国と日本の友好関係を大事に育ててほしい。

(2002.05.29 民団新聞)



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