参院外交防衛委員会に参考人として出席した田母神俊雄・前航空幕僚長=08年11月11日
ネット検索大手ヤフーは、その数字が独り歩きし始めたことに、困惑していた。
「ヤフーで58%が私を支持している」
昨年11月11日の参院外交防衛委員会の参考人招致。日本の侵略戦争や植民地支配を正当化する論文を公表、更迭された田母神俊雄・前航空幕僚長はそう言い放った。
「ヤフー・ニュース」には、ニュースの話題に関するネット投票と意見投稿ができる仕組みがある。ネット投票は同月4日から参考人招致当日まで行われ、投票総数約9万7千、「ほとんど問題はない」「まったく問題はない」を合わせると58%だった。
ヤフーはこの仕組みを、あくまで利用者を引きつけるためのコンテンツ機能と位置づける。二重投票の制限などはしているが、そもそも統計学的な精度は担保されていない。
NHKが同月の世論調査で、田母神氏を空幕長にした政府判断の是非を尋ねたところ「大いに問題」が30%、「ある程度問題」が35%にのぼった。日本テレビの世論調査でも、田母神氏の更迭について「適切と思う」が59%。いずれも電話番号を無作為に選んで行う方法だった。
ネット上で「世論」のように見える意見。だが一部の利用者による大量の書き込みや、同じ文言で投稿欄を埋め尽くすことも少なくない。そんな「ネット世論」の違いを、利用者にどう示すか。ヤフーでは、以前からの検討課題だった。
たとえば先月中旬。政権の枠組みについて尋ねた時事通信の世論調査のニュースには、約7500件の意見投稿があった。だが、投稿者の1%にあたる上位10人による投稿が全体の20%、投稿者上位20%では投稿の約80%を占めた。
「ヤフー・ニュース」は今月5日、その仕組みを一新。投稿者がヤフーに登録しているIDの一部とともに、過去にどんな投稿を何件しているのか公開するようにした。
「どんな人が書いているか一目でわかり、意見を判断する基準になるはず」と同社の川邊健太郎・ニュースサービス部長(34)は話す。
一方で、ネットでつながる意見が、現実の世論を呼び起こすこともある。
「ネット世論を無視はできない」と中島竜馬さん(33)は言う。巨大ネット掲示板「2ちゃんねる」を自動解析し、話題を順位付けするサイト「2NN」の運営者だ。
「銚子電鉄を救おう」。06年、千葉県のローカル鉄道が経営難に陥っていた時、支援を呼びかけ、世論を盛り上げた舞台の一つが「2ちゃんねる」だった。「ネット世論がすべてではない。でも、力は持ち始めている」(小堀龍之)