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医療ナビ:周産期心筋症 妊娠中や出産後に発症する動悸、息切れ、むくみ…

 ◆周産期心筋症 妊娠中や出産後に発症する動悸、息切れ、むくみ…。重症化すると死に至ることも。

 ◇心臓が拡大し機能低下、対症療法で回復待つ

 ◇見逃す例多く、体重急増したら受診を

 妊娠中や出産後に、動悸(どうき)や息切れを訴える人がいる。全身がだるく、むくんで咳(せき)が出ることもある。他の病気でも表れる症状のため軽視されやすいが、「周産期心筋症」の可能性がある。注意が必要だ。

 ■原因は不明

 妊娠すると心臓には大きな負担がかかる。胎児に栄養を送るため、体内を流れる血液の量が1・5倍になる。心臓が送り出す血液も1・3~1・5倍に増え、心拍数も増える。発症には妊娠の影響があるとみられるが、実際に心筋症になる女性はごく一部で、詳しい理由は不明だ。

 欧米のデータによると、患者の約半数は半年程度で正常に戻るが、残りは長期間、心臓の働きが低下したままだ。数年の闘病後、死亡する場合もある。回復した人も、再び妊娠すると再発する可能性が高い。国立循環器病センター(大阪府吹田市)の池田智明・周産期治療科部長は「重症になると命にかかわるため、非常に重要な疾患だ」と訴える。

 妊娠中は心筋症でなくても動悸や息切れが起こりうる。まれな病気のため医師も気づきにくい。ぜんそくと診断されて、約3カ月投薬治療を受けたが良くならず、救急搬送され周産期心筋症と診断された例もあるという。

 病院に行く目安は、安静時に症状が起きたり、1週間で3~4キロも体重が増えた場合。「かかりつけの産科医に相談するか、総合病院の内科を受診してほしい」とセンターの神谷千津子医師は話す。

 心臓の超音波検査などをして▽発症が妊娠中か、出産後5カ月以内▽心臓の収縮力や、血液を送り出す機能が基準以下▽妊娠の他に原因がない--などの条件を満たした場合に、周産期心筋症と診断する。心筋が伸びて、心臓全体が大きくなるのも特徴だ。

 治療では体内の余分な水分を取り除いたり、心臓の働きを助ける薬を使うなど、一般的な心筋症と同様の、対症療法が中心になる。体の負担となる妊娠を早めに終わらせるため、予定日より早く帝王切開で出産させる場合もある。

 ■日本は統計なく

 日本では、周産期心筋症の患者数や死者数のデータがほとんどない。学会で個別の事例報告があるだけだ。

 米国の調査によると、アジア系人種では妊婦2675人に1人で発症している。日本に当てはめると年間約400人の患者がいる計算になる。

 07年の厚生労働省人口動態調査では、妊娠中か出産後満42日未満で亡くなった「妊産婦死亡」は年間35人だった。このうち、分娩(ぶんべん)が直接死因と関係ない「間接産科的死亡」は5人。他に満42日以降、1年未満で死亡した「後発妊産婦死亡」が2人いた。

 出産後1年までに周産期心筋症で死亡した人がいれば、統計の分類ではこの計7人に含まれるはずだ。ほかに、1年以上たっての死亡もあるが、これは同調査では分からない。それに加え池田部長は「1年未満の死亡でも、調査で妊産婦死亡として扱われない例があるのではないか」と指摘する。

 海外のデータでは、間接産科的死亡は妊産婦死亡の約4割に達する。後発妊産婦死亡も日本よりかなり多い。日本では産科以外の医師が死亡診断書を書くと、妊娠について記述せず、統計からもれているためと考えられる。このため池田部長らは死亡診断書に妊娠の有無を点検する欄を新設するよう厚労省に提言している。

 ■初の全国調査

 昨年12月、池田部長らは全国調査に着手した。インターネットを通じ、産科や循環器内科のある病院、救急病院など約2400施設から、07年1月~08年12月に治療した周産期心筋症の患者データを集める。妊娠の経過や妊娠中の合併症、心筋症の発症時期や心臓の機能の変化、治療に使った薬、回復の程度などを調べている。2月中にデータを集め終え、分析する。神谷医師は「早く治療を始めるためにも、多くの人にこの病気の存在を知ってほしい」と語る。【渋江千春】

毎日新聞 2009年2月10日 東京朝刊

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