軽量級で6オンス・グローブの使用、なぜ反対か 石井敏治(新日本木村ジム)

 PABA(汎アジア・ボクシング協会)では、昨年12月1日から同協会の認可のもとで行われるミニマム、フライ、S・フライ級の3階級のタイトルマッチで使用するグローブを6オンスにすることを一年間の期限付きでテスト的に行うことになった。このテスト結果が良ければWBAでも検討すると報じられている。ボクシングの試合で使用されるグローブの重量が6オンスの場合と8オンスの場合との危険度の違いについては医学的にも別れるところだ。つまりグローブの軽い重いでの安全性に関する確定的な結論は出されていない。軽いグローブの使用を推奨する派の言い分は「小さいグローブを使った場合に受けた打撃の衝撃によってノックダウンが起こり易く、そのためにダメージの累積が無い。大きいグローブを使った場合は、ダメージを受けても即座にノックダウンに結び付かず、この状態で更に加撃されれば意識が判然としない状態でパンチを浴びるので危険である」。 興行面からいうと試合がノックアウトで決まる率が高まるので、ボクシングファンの歓心を高める効果がある。
 私はPABAの決めた6オンスグローブの採用については賛同しかねる。私が賛成しない理由は次の通りである。
(1)軽いグローブは安全であるという医学的な確証がない。
(2)ダウンしたボクサーがカウント途中で立ち上がってファイティングポーズを示せば、余程のダメージの残留が認められないかぎり試合は続行され、さらに打撃を受ければダメージが累積される。また、一発の打撃によるノックダウンでも事故の起きない保証はない。
(3)PABAでテストする一年間の3クラスで行うタイトルマッチの回数では、3クラス共に2カ月に一度の割合(実際にはこんなに多くは出来ない)で試合を行ったとしても合計36人分のデータ量である。安全性を類推するにはあまりにもデータ量が少ない。
 現行のJBCをはじめ世界的に採用されているミニマムからS・ライト級まで8オンス、ウェルターからヘビー級まで10オンスのグローブ使用でよいと思う。
 大きいグローブではダメージの累積がおきる説については、試合では試合進行の管理者としてレフェリーが存在するので、ダメージの累積による危険が認められる場合は適切な処置がなされるので、グローブの大小は関係ない。
 ノックアウトの発生率については、これはパンチを繰り出す技術とタイミングによるものであってグローブを小さくしてノックアウトの発生率を高めると考えるのは邪道である。
 現状を変えて小さいグローブの採用に踏み切った場合、万一試合で事故が発生してボクサーが死に至るという不幸な結果が生じれば、マスメディアをはじめ与論は一斉にボクシングの危険性を唱えることは目に見えている。
 ちなみに大きいグローブを使用した場合における危険性については、確かに小さいグローブで打撃を受けた場合と異なり、打撃を受けた直後に症状は出にくいことは事実だ。練習のスパーリングにおいては、現在、14オンスまたは16オンスのグローブを使っていると思うが、打撃を受けた直後に症状が出にくいためにスパーリングはそのまま続行され、続けて受けたダメージが累積するのも事実である。従ってスパーリングを行うに当たっては、必ず指導者が立ち会って細心の注意を払って管理しなければならない。比較的多くの打撃を受けた場合はそのボクサーが次のスパーリングを行うに当たっては、十分なる間隔をおかなくてはならない。14、16オンスのグローブなら安全とは言い切れない。
 ヘッドギアーの着用も、目の周辺の傷の発生を防ぐに留まり、頭蓋内損傷については効果はないと思わなければならない。一説によれば、「ヘッドギアーの着用によって頭部が圧縮された状態になっているところへパンチが当たると、覆ったヘッドギアーの面で打撃の圧力が拡散するために脳に対する影響は好ましくない」。グローブが大きくても、ヘッドギアーを着用しても、とにかくボクシングというスポーツは危険が伴うことを熟知しておかなくてはならない。なるがゆえに、これほどスリルに満ちたスポーツは他にない。


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