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地域医療の危機:担い手たちの声/上 渡辺内科医院・渡辺立夫院長 /岩手

 県立病院・地域医療センター6施設の入院ベッド廃止(無床化)を柱にした県医療局の新経営計画案。医療局は、過酷な勤務状況による医師不足を理由に挙げ、住民に「地域医療を守るため無床化が必要だ」と理解を求める。果たしてこの新経営計画案で医師不足に歯止めがかかり、地域医療の確保につながるのか。地域で医療に携わる現場の医師2人に意見を聞いた。【山口圭一】

 ◇医師やる気そぐ無理解

 〈県医療局によると、04~07年度の4年間で県立病院・地域診療センターの医師は定年者を除き140人が退職。うち91人が開業や民間病院への転職を理由にしている。同局は「医師不足の病院に派遣される診療応援などがある県立病院の勤務環境は過酷だ」と無床化に理解を求める〉

 確かに当直で夜通し救急患者が運ばれ、翌日も外来がある中央病院は大変だろう。しかし、地域診療センターはそうではない。むしろ、事務方の無理解こそが医師のやる気をそいでいる。

 例えば紫波地域診療センターでは、現在のセンター長が赴任後、赤字額を減らしている。病床稼働率は7割を超え、ベッドはフル回転だ。多くの患者をみとっている。それなのに「赤字、赤字」と言われる。私ならすぐ辞めてしまうよ。

 〈紫波地域診療センターの無床化を巡る県医療局の住民懇談会で、「計画案はかえって医師不足を加速させる」と訴えた〉

 無床化対象6施設の医師は半分以上辞めるだろう。そもそも、診療センターと中央病院などは役割が違う。体力的にもセンターから異動するのは難しい。しかもセンターの外来業務のため、基幹病院から医師が派遣される。日本刀で爪楊枝(つまようじ)を研ぐようなもので、基幹病院の医師の不満もたまる。

 医療局の人事は病院経営を悪くしていないか。ある医師は、旧大迫病院で高血圧や脳卒中などの予防医学に傾注し、大迫方式として注目を集めた。宮古病院の院長に「栄転」したが、「医師を確保できない」「赤字だ」と批判され続け、辞めてしまった。内科のオールラウンドプレーヤーだった彼が大迫に残っていれば赤字にならなかったのではないか。

 〈紫波地域診療センターの役割を終末期医療に限定し、開業医も当直体制に協力する私案を示した〉

 末期がんのように痛みの緩和が必要だが急性期ではない終末期患者を受け入れてほしい。医療局は中央病院の協力病院で受け入れると言うがそれも3カ月が限界。患者の家族は転院先を心配し続けなくてはならない。外来は開業医でカバーできる。救急は現状の職員や機器では対応できない。

 〈懇談会でも県医療局は「持ち帰って検討したい」と回答を明言せず、間もなく計画の最終案を示す〉

 寄せられた意見を本当に検討しているのだろうか。「意見を聞いた」というアリバイづくりのような懇談会だった。地域にとって大事なベッドを守れないか。せめて6カ月間でも猶予がほしい。

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 ■人物略歴

 ◇わたなべ・たつお

 76年岩手医大卒後、同大第2内科に入局。80~82年県立中央病院呼吸器科に勤務。県医療局退職後、出身の紫波町で開業した。現在、紫波郡医師会副会長。56歳。

毎日新聞 2009年2月7日 地方版

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