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Dr.北村 ただ今診察中:第170話 朝食と性交開始年齢、どう関連?

 「あなたは中学生のころ、朝食をとりましたか」。この質問がこれほどの論議を巻き起こすことになろうとは、調査を担当した僕でさえ想像もつかないことでした。中学生のころ、朝食を食べなかった人の性交開始年齢は早まるというものです。

 毎度おなじみの厚生労働科学研究班(厚労省)が昨年9月に全国で実施した「男女の生活と意識に関する調査」。40問に及ぶ設問のクロス集計を試みた結果のひとつでした。選択肢は「(1)毎日食べた (2)だいたい食べた (3)あまり食べなかった (4)食べなかった」の四つ。回答いただいた16歳から49歳の男女1468人のうち、「毎日食べた」は69.1%、「だいたい食べた」16.8%、「あまり食べなかった」9.8%、「食べなかった」4.0%でした。「食べた」は86%近くに達しているわけですから、「早寝早起き朝ご飯」の「朝ご飯」は及第点といっても異論はないでしょうね。

 この研究の目的は人工妊娠中絶の減少要因を探ることにあり、中絶を減少させるには確実な避妊を行って望まない妊娠を回避すること、特に若い世代について言えばわずかな期間ではあっても性交開始時期を遅らせることで結果としてリスクを減らせるのではないかとの仮説を立てた訳です。そのために、既に性交を経験したと回答した1129人について、性交が初めて行われたのは何歳で、いろいろな条件のもと、性交開始の平均年齢にどのような影響が及ぶかを計算したところ、「毎日食べた」19.4歳、「だいたい食べた」18.3歳、「あまり食べなかった」18.1歳、「食べなかった」17.5歳となりました。統計的に有意差があることは明らかですが、「朝食を食べないこと」と「性交開始年齢が早くなる」こととをどう関連づけるか頭を悩ませることになりました。

 「(中学生のころ)朝食を食べない」は、食べたくても親が離婚あるいは死別などによって「食べられない」。親が作ってくれないから「食べられない」。親が作ってあげたい気持ちがあっても経済的な理由や仕事が忙しくて作れないから「食べられない」。本人の夜更かしが過ぎて「食べられない」。ダイエットをしているので「食べない」などなど。そのすべてが性交開始年齢に影響するとは考え難いですし、性交開始年齢が早まったのは親のせいだと論じるのも乱暴ですし……。結局、親の問題、子ども自身の問題、親と子の関係性の問題によっては性交の開始を早めてしまうと紹介したわけです。しかし、ネット掲示板などでは、「二つの事象はストレートに因果関係がある」と曲解した人も多く、「中学生のころ、朝食なんか食べなかったのに30歳を超えた今も童貞なのはどうしてか?」「セックスを早く経験したいから朝食を食べないことに決めた」「食事とセックスを関連づけようという無謀さ」と書き込まれる始末。アンケート調査結果の扱いの難しさを痛感させられました。

 僕が朝食にこだわったのには理由があります。僕の出身大学である自治医科大学は全寮制。そのために朝食を食べたか食べなかったかが一目瞭然(りょうぜん)でした。それに目を付けたのが生化学講座の香川靖雄教授(現・女子栄養大学副学長)。学生を対象に行った調査で朝食を食べている学生と食べていない学生では、食べている学生の方が学業成績100点満点で4.2点高いという結果が出たのです。

 朝食に限ったことではありませんが、空腹によって血糖値が下がることはよく知られています。血糖値が低いと頭がぼんやりしたり、気分が悪くなったりして、仕事や勉強の能率が低下しがちになります。だから学業成績に差が出た、などの可能性は考えられますが、性交開始年齢を早めることとの関連性を明らかにするのは無理があるかもしれません。これについては、今しばらく研究を進めることとしましょう。

 ◇北村邦夫(きたむら・くにお) 医師。社団法人 日本家族計画協会常務理事・クリニック所長。女性の健康相談や低用量ピルの承認に向けた活動などを展開。日本母性衛生学会常務理事。

2009年2月5日

 

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