『神は沈黙せず』山本弘著 角川書店 P58−P64(順次抜粋)
権威が失墜するのを見るのは楽しいものである。六〇歳の直木賞作家がこてん ぱんに叩きのめされたのを見て、観戦していたネットウォッチヤーたちは大いに喜び、 「あくはと」に賞賛のメッセージを送った。
しかし、本当のセンセーションはその後だった。バトルをウォッチしていた一人が 「自分が生まれる半世紀も前の事件」という箇所に疑問を抱き、「あくはと」に年齢と職 業を訊ねたのだ。彼が誇らしげにこう筈えた時、衝撃がネットを駆け抜けた。
「私は1989年生まれ。19歳。中卒。職業は天地人さんと同じく、小説家です」
六〇歳の先輩作家をやっつけた一九歳の少年「あくはと」が、加古沢黎という名であ ることは、すぐに知れわたった。
職業が小説蒙というのも本当だった。
(中略)
まさに「天才」と呼ぶにふさわしい人物だった。
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