■「愚民」が「若い人」だなんて、嘘。
とか書いても、本当に「若い人」なんて読む人はいないと思います。Titleは冗談です。(w
訓民正音の創生理由を調べるために、資料をいくつかHistry板、Calture板で掲示してきましたが、その補足ということで、「
愚民」について考えてみたいと思います。とはいっても、素人の駄文ですので、軽い気持ちでどうぞ。
さて、「
愚民」というと、NAVERでは「
愚」だけ殊更注目されますが、歴史的には別段珍しくもなんとも無く、ありふれた(?)言葉です。儒教上(に限らず)、有徳の士を「
聖(ひじり)」と呼ぶのに対し、道徳的に駄目人間を、「
愚」と称します。この場合、「
賢」の反対語としての「
愚」いうより、「
聖」の反対語としての「
愚」である、と思っていただければ良いと思います。
例えば、聖徳太子の憲法十七条のうち、10条に「
我必非聖 彼必非愚」とありますし(そういえば、1条の「
以和爲貴」も儒教的概念に見えますね)、漢書の古今人表(中国の個人道徳成績表みたいなもの。上の上、上の中、上の下〜下の中、下の下の9段階で人を評価。)にも上の上は「
聖人」、下の下は「
愚人」としているのが例になるでしょうか。
さて、ここで件の「
愚民」に目を向けてみましょう。「
國之語音
異乎中國 與文字不相流通
故愚民 有所欲言 而終不得伸其情者多矣」ですから、「中国と語音が違う」が理由で、「
愚民は情を述べる方法が無い」のであって、「述べる方法が無い」から「
愚民」とは、訓民正音世宗序の文面からは即座に確定できません。では、他に世宗が「
愚」を同じように用いた例が無いかというと、世宗実録巻一百三に有ります。
■世宗実録巻一百三 26年2月条
上曰前此金[シ+文]啓曰 制作諺文 未為不可 今反以為不可 又鄭昌孫曰 頒布三綱行実之後 未見有忠臣孝子烈女輩出 人之行不行 只在人之資質如何耳 何必以諺文訳之而後
人皆効之 此等之言 豈儒者識理之言乎 甚無用之俗儒也
前此 上教昌孫曰 予若以諺文 訳三綱行実 頒諸民間 則愚夫愚婦
皆得易暁忠臣孝子烈女 必輩出矣
三綱行実を翻訳して、愚夫愚婦に配布すれば、忠臣孝子烈女が得られるだろう、となっていますね。逆に言えば、愚夫愚婦が三綱行実の内容を理解し、実行すれば「
愚」でなくなる、となると思います。三綱とは、孝子(親子の関係)、忠臣(君臣の関係)、烈女(夫婦の関係)の儒教上の模範を指し、それに行実が加わりますので、具体的に儒教的道徳において理想とされる行動はこうだ、と教える道徳教科書のような物です。三綱行実図は、朝鮮時代に、何度も発行されているので、名前を聞いた事がある方は多いと思います。
続三綱行実図
反対に、「
聖」の使用例はどうか、といえば、これはわざわざ例示する必要も無いでしょう。「
聖人」「
聖上」「
聖賢之文字」等々、実録や禮関連の文書の序を読むだけで散々出てきます。
世宗の考え方に於いても、「
愚」を「
聖」の反対語、儒教道徳的に駄目人間という意味で使っているのが分かりますね。となると、訓民正音の「
愚民」のみを以って、ただ単純に「中国語が読めない人」と見るのは誤りだとお分かりいただけると思います。
「
愚民」の意味を考えれば、訓民正音の目的や思想的背景が理解しやすくなるのではないでしょうか。
■過去の投稿
漢書の古今人表の愚人の代表例は、紂王、妲己でしょうか。周の治世を理想とするならば、そりゃ愚人筆頭でしょうね。特に班固的に。
yonaki1111@おあそび中