焦点:国内生産落ち込みで危機的状況、物価とのスパイラル警戒も
2月1日15時19分配信 ロイター
1月30日、国内生産が加速度的に落ち込んでいる。写真は東京都内の街頭で(2009年 ロイター/Yuriko Nakao) |
[東京 30日 ロイター] 国内生産が加速度的に落ち込んでいる。このまま生産減少が継続すれば、2008年10─12月期の国内総生産(GDP)はマイナス10%を超える見込みだ。
1─3月期はさらにマイナス幅が拡大する可能性があるなど、第2次世界大戦以降では最悪の危機事態に直面しつつある。さらに物価下落の兆候も見え始め、生産と物価のスパイラル的な下落局面のリスクに警戒する声もマーケットでは出始めた。
<大恐慌時に迫る勢需要減退の声>
経済産業省が30日発表した12月の鉱工業生産指数速報は、11月に次いで過去最大の下落幅を記録した。10─12月期に続き、1─3月期は前期比2ケタのマイナスが継続する可能性が高まるなど、過去に類例を見ない大幅な調整となった。
今回の数字を受けて与謝野経済財政担当相は30日の閣議後会見で「鉱工業生産は非常に心配だ。これだけ鋭角的な落ち込みは過去経験したことがない」と懸念を示した上で「この期の落ち込みだけでなく、今後落ち込みが続く可能性がある」と、落ち込みが一時的なものでないことを認めた。
民間エコノミストも「今回の景気後退の深さは戦後最大と見ることができる」(ニッセイ基礎研・シニアエコノミストの斎藤太郎氏)、「現段階では(ピークから生産が)既に3割以上落ち込んでいる可能性が高い。大恐慌時は約4割低下したが、それに迫る勢いで世界的な需要減退が起きている」(農林中金総研・主任研究員の南武志氏)など危機的な状況との見解が相次いだ。
2カ月連続で、過去最大の落ち込みとなったにもかかわらず、生産の底打ち感を指摘する声はほとんどない。今回の生産の大幅下落は、外需の急激な委縮による輸出減が大きく影響しているが、外需の早期の立ち直りは期待できない情勢だ。国際通貨基金(IMF)は、2009年の世界経済見通しを従来の予想より1.7%ポイント低い前年比プラス0.5%、米国の見通しも0.9ポイント下げて同マイナス1.6%に下方修正した。日本はマイナス2.6%となり、G7の中では英国のマイナス2.8%に次いでマイナス幅が大きくなった。
11月、12月の大幅な生産カットにもよっても、在庫はむしろ積み上がり、いわゆる「逃げ水現象」が見られている。最終需要の大幅な落ち込みが継続し、どこまで行けば、底に突き当たるのかわからないという状況が続いている。在庫調整の深さを示す出荷在庫バランス(出荷の前年比マイナス在庫の前年比)は、12月にマイナス25.2%となり、9月時点でのマイナス3.8%から急拡大している。
アール・ビー・エス証券チーフエコノミストの西岡純子氏は「仮に超楽観シナリオで早期に輸出主導で需要が底打ち反転しても、在庫調整圧力の強さから、生産調整は長引く可能性が高い」と指摘した。
<雇用情勢悪化で消費にもマイナス圧力>
GDPの最大項目である消費が、今後さらに減速する可能性が高まってきたことも懸念材料だ。総務省が発表した12月の失業率は4.4%と、前月比で0.5%ポイントの上昇となり、実質的に戦後最悪の上昇幅となった。
このところ非正規雇用者の雇用カットに注目が集まっているが、雇用不安が消費者マインドを委縮させ、消費を下押しすることは、1997─98年の金融システム危機時にも見られた。
大和証券SMBC・シニアエコノミストの野口麻衣子氏は「大幅減産を受け、製造業の雇用については正社員にも影響が及ぶことは不可避。雇用不安が、内需をさらに冷やすリスクが増しつつあるようだ」と指摘した。雇用、消費がさらに悪化すれば、生産の下押し圧力がさらに強まるのは必至だ。そうなれば一段の雇用悪化・消費減退への負のスパイラルにつながる可能性もでてくる。
<10─12月期GDPは戦後最大のマイナスも>
30日の生産や家計調査の発表を受けて、10─12月期GDPが、戦後最大の落ち込みとなるとの見方も強まってきた。三井住友アセットマネジメント・チーフエコノミストの宅森昭吉氏は、外需の史上最大の落ち込み、設備投資悪化などから、前期比年率でマイナス13.1%になると予想した。これは第1次オイルショック時の1974年1─3月期に記録した戦後最大の低下に並ぶ。西岡氏もマイナス14%と戦後最悪の落ち込みを予想している。
1─3月期GDPについても厳しい状況が続く可能性が高い。バークレイズ・キャピタル証券チーフエコノミストの森田京平氏は「1─3月期GDPも前期比年率10%近く落ち込んでもおかしくない。そうなれば、2四半期連続で年率10%程度減少するという前代未聞の景気悪化となる」と指摘した。
また、東海東京証券・チーフエコノミストの斎藤満氏は、生産の減少が3月まで同じペースで続くとすると、1─3月期のGDPは「前期比年率換算でマイナス20%超になる可能性が高まっている」と試算する。
経産省の試算によると、1月、2月の生産が同省の予測通りとなり、3月が前月比横ばいになった場合、1─3月期の生産は前期比マイナス20.3%と、10─12月期の同11.9%を上回り、過去最大の下落幅を更新する可能性がある。
こうした状況について、日銀も厳しい認識を示している。1─3月は企業の聞き取り調査などから「かなり大幅な減少になる」(1月金融経済月報)ことは避けられないとみていたものの、実際の数字をかなり深刻に捉えているようだ。日銀は1─3月は昨年10─12月よりもマイナス幅が拡大する可能性が高いとみているが、4─6月も同じような状況が続くようだとシナリオの見直しを迫られるのは必至だ。
<石油価格下落・景気悪化で強まるデフレ懸念>
また、ここにきて「日本経済はデフレの危機にさらされている」(マネックス証券・チーフエコノミスト、村上尚己氏)、「原油など国際商品市況のバブル崩壊、景気大幅悪化による需給の緩み、大幅な円高から、物価状況はいわば複合デフレの様相を示し始めた」(みずほ証券・チーフマーケットエコノミスト、上野泰也氏)と、デフレを懸念する声もにわかに強まってきた。
12月全国コアCPIは前年比プラス0.2%となり、市場予想のプラス0.3%を下回った。エネルギー価格がマイナスに転じたことや、食品価格の上昇幅縮小などが要因。今後はさらに、円高や景気悪化による需給ギャップのマイナス幅拡大などで物価下押し圧力が強まる可能性がある。上野氏は「(全国コアCPIは)2月分でマイナスに転落する可能性が高い」と予想した。
(ロイター日本語ニュース 児玉 成夫)
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