一般用医薬品の販売方法を規制する改正薬事法の施行を前に、漢方薬や生薬など「伝統薬」を製薬してきた地方の中小業者が危機感を募らせている。「伝統薬」は遠方の利用者から電話で注文を受けてきたが、同法に基づき厚生労働省は近く、医薬品の通信販売を原則禁止する省令を出す方針だ。九州などの中小業者は「全国伝統薬連絡協議会」(事務局=再春館製薬所)を結成し、方針の見直しを求めている。
「伝統薬」は、野草や木の皮などを原料に生成する薬。胃もたれや便秘など多彩な薬効があり、九州や関西、東北など地域ごとの「家伝薬」として、さまざまな種類が伝承されている。
「全国伝統薬連絡協議会」を結成したのは、福岡県2社、熊本県8社、鹿児島県4社を含む全国34業者。厚労省が省令案を公表した後の昨年10月に設立、意見書の提出などで「省令案の内容は廃業を招く」と訴えてきた。多くは家族経営を主体とした数人規模の零細業者という。
婦人病に効く漢方薬を販売する熊本県玉名市の「田尻製薬」(平田志保社長)は売り上げの約8割が通販。平田社長は「電話口で病状や体質をしっかり聞き取り、安全性のケアは対面販売と変わらない」と強調する。全国の薬局に薬を卸して販売するのは資金的に難しく「通販が禁止されれば、江戸時代から受け継ぐ薬の伝統が途絶えかねない」と危ぶむ。
ただ、医薬品の通信販売をめぐっては2006年、埼玉県の少年が北九州市の薬局からインターネットで鎮静剤を大量に購入して自殺を図るなどのトラブルが報告されている。このため、ツムラや武田薬品工業など大手でつくる「日本漢方生薬製剤協会」(東京)は「国民の安全を考えるのが企業の責任」と規制を受け入れる方針だ。
全国薬害被害者団体連絡協議会の間宮清・副代表世話人は「本人の自覚症状がないまま副作用が進む可能性もあり、電話での聞き取りでは不十分」と指摘。
厚労省医薬食品局は「5年前から業界側とも議論を重ね、対面販売が最善と判断した。業者は通販に代わる新たな販売方法を検討してほしい」としている。
■改正薬事法
6月に全面施行される改正薬事法では、一般用医薬品を副作用の危険度で分類した1‐3類のリスク区分に応じ薬の販売方法を規定している。漢方薬を含む伝統薬などは2類(リスクが比較的高い)に分類され、厚生労働省は1類(特にリスクが高い)とともに通信販売を禁止する方針。一方、対面販売については、都道府県が資格試験を行う「登録販売者」を配置すれば、1類を除く医薬品をコンビニエンスストアなどでも販売できるなど規制を緩和する。
=2009/02/01付 西日本新聞朝刊=