「英語の授業は基本的に英語で」。昨年末に発表された高校の新学習指導要領案はうたう。「英語に自信がない」「受験英語を教えるのは無理だ」などと、教員からは不安の声も聞こえる。無理なく授業ができるのか。既に実践している福岡市西区の市立福岡女子高校国際教養科の授業をのぞいた。【高橋咲子】
1年生の英会話。「ピースオーケー?」。オーストラリア人の講師の言葉に、生徒はきょとんとしている。すかさず木村索(さく)教諭(48)が黒板に「piece of cake」と書き、さらに「This is very easy(すごく簡単なこと)」と分かりやすく言い直すと、生徒たちはうなずいた。
日本語はほとんど使わず、外国人講師の話に木村教諭が助け船を出し、内容の理解を深めるといった手順だ。
講師が続いて、日本語のことわざを「There’s no such things as a free lunch」と紹介した。「freeってどんな意味?」と英語で木村教諭が尋ねる。「日本語のことわざには『タダ』がつきます」。そう問いかけると生徒がのってきた。「ただほどうれしいものはない?」「いや、ただより高いものはない!」
木村教諭は生徒にどんどん質問を投げかける。生徒が積極的に答えを返すので満足そうだ。
次は、受験問題を解く3年生の授業だ。木村教諭が1人で担当した。
穴埋めの構文問題のテキストを開く際には「Where are we?(授業はどこまで進んでたっけ)」。意味を問う際には「What doesthismean?」と尋ねるなど声掛けは英語だ。だが、日本語での説明も多く、英語の使用率はぐっと減る。
3年の山口渚沙さん(18)は「分からないこともあるけど、日本語や簡単な英語でのフォローがある。文法を習っているけど、日常会話の勉強にもなる」と歓迎する。矢野美咲さん(18)も「普段の授業のおかげで外国人講師に臆(おく)せず話せる」と話す。国際教養科には、そもそも英語に関心のある人が入学していることもあり、「英語を使った授業」に生徒側は好意的だ。
木村教諭は「留学したこともなく、英会話学校に通ったこともない。ましてや40歳まで英語圏に旅行に行ったこともなかった」と明かす。同校赴任後、外国人講師との授業の打ち合わせで英語力を磨いたという。「特別な経験がなくても教えられる」と話す。
とはいえ、英会話の授業ではほぼ100%英語を使うが、文法の授業では4割程度。「仮定法や関係代名詞などは概念が複雑で、教える際、ある程度は日本語を使わざるを得ない」と認める。
福岡教育大の高梨芳郎教授(英語科教育)は、新指導要領案について「単に指示や声掛けを英語ですればいいというのではない。一方的に教師が説明するのではなく、生徒自身に英語を使って考えさせたり、表現させることを重視していると思う」と分析する。そのうえで「趣旨を理解して、教師はできる範囲で授業のあり方を変えていけばいい。同時に教師の研修を充実させるなどのフォローも必要だ」と話している。
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■ことば
英語は13年度入学生から適用。文法・訳読中心の指導からコミュニケーション能力重視へ方針転換し、授業を英語で行うことを基本とした。覚える英単語は現行より500語多い1800語、中高で計3000語に達し中国や韓国とほぼ同程度となるという。高校の指導要領の全面改定は10年ぶり。
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2009年1月31日 地方版