1999年6月18日


どうなる児童ポルノ処罰法 「エクパット関西」に聞く



「運用状況を監視し、より
良い制度への見直しに」

 18歳未満の児童を被写体にしたポルノをインターネットで公開することなどを罰則付きで処罰する「児童買春・ポルノ処罰法」(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)が今国会で成立、年内にも施行される。しかし、同法をめぐっては取り締まりの対象となる児童ポルノの定義があいまいであるなど、問題点も少なくない。大阪市を中心に児童の性的な搾取、虐待問題を考える市民グループ「エクパット・ジャパン・関西」(大阪府豊中市、会員約80人)は、同法の対案を発表するなど市民の立場から児童買春・ポルノ問題に取り組んでいる。エクパット関西の世話人を務める園崎寿子さんに児童ポルノ問題や同法についての考え、今後の活動方針などについて聞いた。園崎さんは「法律の運用状況を監視し、より良い制度を作るために3年後の見直しにつながる活動を進めたい」と語った。
 −−エクパット関西では児童ポルノ処罰法を考える連続ワークショップを開いている。第1回では、児童ポルノ処罰法が規定する「児童ポルノ」が何を指すかが議論として大きく取り上げられた。
 この法律は、どこまでが規制範囲なのかよく分からない。「衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させまたは刺激するもの」と規定しているが、この定義の仕方は刑法のわいせつの定義によく似ている。つまり、見た側が「興奮」したり、「刺激」を受けるかどうか児童ポルノであるかどうかに関係している。見る人によっては、プールで水着を着た児童で興奮する人もいるだろうし、逆に水着を着ていたからといってポルノにならないのだとしたらおかしい。つまり、重要なのは衣服を着ていようが脱いでいようが、児童に性的なポーズを取らせて写真を撮影するなどの性的な虐待を行った児童ポルノの処罰だ。
 −−インターネット上を流通する児童ポルノの80%は日本発と国際刑事警察機構(ICPO)は言っているようだが、そんなに多いのか。
 インターネットは大変な問題だ。ネットを利用してさまざまな児童ポルノ情報が交換されている。実態としては、古くから本として流通していたものが、ネットでも流通しているのではないか。最近急増したという話は聞いていない。ネットは1度出てしまうとほぼ回収は不可能。プライバシー権の問題としても対応すべきなのではないか。
 −−児童ポルノとは何かという問題は非常に難しい。しかも、国によってかなり差がある。スウェーデンでは憲法を改正してまで児童ポルノの単純所持を禁止するようにしたが。
 例えば、国際エクパットのヘレナ・カーレン副会長が来日した際に、彼女に全裸の少女が砂浜でただ座っている写真を見せた。(広報室・注・花咲まゆちゃんです)これは児童ポルノではなく、児童ポルノに厳しいスウェーデンでも処罰対象とならないという。さらにもう1枚を見せた。これは、下着を着けているものの、髪を掻き上げてポーズを取っている写真。これは児童ポルノだという。つまり、見る側が興奮するかどうかではなく、被写体となっている児童が性的な搾取を受けているかどうかという点に2枚の写真の違いがある。児童ポルノを含めて裸だからいけないということではないのではないか。残念ながらこうした2枚の写真の違いを見分けるような文化や歴史的な蓄積は、私たちの社会にはないように思う。だから、刑法のわいせつと同様の考えで児童ポルノを取り締まるという発想に傾いてしまうのではないか。
 −−何が児童ポルノとして取り締まり対象とすべきかという議論が、そもそも国会でも足りなかったように思う。
 体を使った表現というのはあり得ると思う。当事者にとって日常の自然な場面で普通のことが、見る側の視点によって児童ポルノになったり、わいせつ図画になったりしてしまうのではちぐはぐだ。女性や子供の行動を規制してしまうことにもつながりかねない。マンガや合成ポルノを含めて処罰すべきだと考える人はエクパット関西のメンバーにもいる。しかし、表現行為に関する規制に対しては慎重になるべきだ。児童虐待の記録としての児童ポルノの規制という観点からの取り締まりを、まず日本では最初に始めるべきだ。ポルノという言葉を使うこと自体が議論に混乱を招いている。
  −−児童ポルノ処罰法では18歳未満を一律に「児童」として扱っている。例えば17歳と5歳の性を同列で議論できるのか。エクパット関西は、年齢について独自の考えを持っている。
 児童買春・ポルノ処罰法では、18歳未満との金銭などが介在した性行為は一律に非親告罪としている。子供の性に関しては思春期前と後を一律に考えることができないのではないかという立場から、エクパット関西では18歳未満を14歳以上、それ以下の2段階に区別した。14歳以上の児童は「試行錯誤」期間という位置付けで、親告罪にすべきだと主張している。ただし、親告期間は15年と長期にわたって告訴可能にしておくことで、自分が嫌だと思った時に訴えられる環境を整えていけばいい。子供の性的な自己決定権を尊重すべきではないか。
 −−エクパット関西の今後の取り組みは。
 児童の保護ということがこの法律の根本と理解している。その点から問題を考え、対案をまとめて発表した。今回の児童買春・ポルノ処罰法は、売春防止法との関連性が不明確だ。児童買春・ポルノ処罰法で保護されたはずの児童が、売春防止法で逮捕されたり、再犯の恐れがあるという「虞(ぐ)犯少年」扱いをされる可能性が懸念されている。対象が無限定に広がる可能性もある。おカネを媒介にしない性的な児童虐待問題もある。法律として課題は多いが、市民運動としては法の運用状況を監視し、よりよい制度にしていくにはどうしたらいいかという観点で3年後の見直しにつながる活動に取り組んでいきたい。
【メモ】英語・フィリピン語通訳。1992年6月のエクパット・ジャパン・関西の結成に参加。1983年3月大阪大学人間科学部(教育学)卒。大阪府内で中学校教員を務める。フィリピン大学に留学。専門は女性学。40歳。
[エクパットジャパン関西]
http://tenkomori.org/ecpat.htm

(臺 宏士)