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夕張市は大丈夫か 脱藩官僚 縦横無尽(25)

[特別取材]

他町村への医師派遣に乗り出した医療法人夕張希望の杜
 私は、2006年3月に30数億円の負債を抱えて倒産した夕張市立総合病院のあとを引き継いで夕張市立診療所の指定管理者になった「医療法人財団夕張希望の杜」を応援するメールマガジンを発行しています。
[ http://www.kinoshita-toshiyuki.net/newsletter.html ]
 今年は、夕張も例年になく雪が少ないようですが、春を迎えた4月からは、夕張希望の杜から隣町の町立診療所に医師を派遣する仕事を始めることになりました。
 今まで隣町の診療所に勤めていた医師が夕張希望の杜の職員となって隣町に派遣されることになったのですが、隣町の行政が診療所に対して無理解であったり、住民がコンビニ医療を繰り返したりするようなら、希望の杜の村上医師兼理事長は、医師を引き上げてしまう可能性があります。

 「コンビニ医療」とは、九州の人には耳慣れない言葉だと思いますが、病院をコンビニと同じように、24時間客の都合でいつでも行っていいところと勘違いして、軽い症状でも真夜中に平気で救急車を呼んで病院に来ることを言います。そうなると、医師は夜中も眠ることが出来ず、疲れ果ててしまい、やがては病院を去ってしまうのです。
 話を元に戻しますと、夕張希望の杜から医師が派遣されるということが無言のプレッシャーとなって、隣町の行政と住民の医師への対応が変わり始めているそうで、コンビニ医療も減り始めているそうです。
 全国各地で、行政職員や議員の医療への無理解が原因で、公立病院から医師が大量に辞めてしまうという事件が頻発していますが、医学部の定員を増やして医師の数を増やすと言う結果が出るまでに10年かかる対策だけでなく、コンビニ医療を減らそうと働きかけている村上医師の運動が、北海道を起点として全国に広がっていくことを期待しています。

■ 夕張市役所は大変のようです
 夕張希望の杜は活発に活動範囲を広げていますが、一方で、夕張市役所は相変わらず大変のようです。夕張市役所に確認はしていませんが、夕張市の隣の自治体に住む知人の話によると、3月末で職員の大量退職の可能性が出ているそうです。
北海道はすでに相当の不景気ですから、どこに就職するのだろうかと思いますが、20~30人という規模だそうです。08年4月1日現在の職員数は148名で、財政再建計画では10年4月1日までに130名の職員数にする予定です。

 夕張市は4市5町で構成されている「南空知ふるさと市町村県組合」という一部事務組合に所属しており、周辺の市町と共同して行なっている仕事がありますが、その広域圏組合に所属している市町に対して、夕張市役所は職員の派遣要請を非公式に行なっているようです。
夕張市の周りの市町村は凄く財政状況が良いわけではありませんので、当然ですが、簡単に人を出すことが出来るわけではありません。その知人は、このままいくと、周りの市町にも悪影響が生じるのではと心配していました。
 しかし、私は違う印象を持ちました。30名退職すると、職員数は118名となり、再建計画よりも10名少ない職員数となりますが、人口が1万2,000名を切っている町としては、ものすごく職員が少ないわけではありません。いままでが「ぬるま湯」だったから、職員は大変になるなと思うのだろう、と感じました。
 
■ 夕張市がまた脚光を浴びるのでしょうか?
 もう1つ感じていたのは、このように大量に自主的な退職がでることが当初から予想されていたことです。
北海道では、夕張市役所に先駆けて2割、3割という給料カットを職員が自発的に行なった町があります。実は、この町の取組みが夕張市役所のモデルとなっているようなのですが、夕張市は自発的に行なったわけではありません。
 自発的な取組みではありませんから、計画では、退職金は少しずつ削減されていきますし、いずれ給与カットの厳しさに耐えかねて退職する職員が出てくるだろうことは、私は当初から予想していました。

 しかし、そうはいっても、大量の自主退職が出てくることは、次の年も職員の大量退職が出てこないとも限らないので、自分が夕張市の市長だったらどうするかと思うと、ゾッとします。私が佐賀市役所で第3セクターの再建に当たっていた時も、社員が集団退職をして会社の機能が麻痺してしまうのではないかとの恐怖があったことを思い出しました。
ここ数ヶ月、夕張市役所の市長コラムも更新がありません。それどころではないのかもしれませんね。
 [ http://www.city.yubari.lg.jp/contents/diary/index.html ]
 しかし、これも財政破綻第1号の特権で、東京都以外の自治体からも職員が何名も派遣されることになるかもしれません。夕張の支援に熱心な東京都の猪瀬副知事が、各都道府県や政令市に声をかけてくるかもしれませんね。
 
 わたしも夕張への職員派遣は大賛成です。この修羅場を自分の目で見て、当事者として関わることほど職員の力量と見識を高めることはないと思います。
最近は、マスコミに取り上げられることも少なくなった夕張ですが、また大きく取り上げられることになるかもしれません。市役所のホームページのバナー広告も、いまは空きスペースだらけですが、また全部埋まるようになると良いですね。

 木下 敏之
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□木下敏之行政経営研究所代表 □前佐賀市長(1999.3~2005.9)
http://www.kinoshita-toshiyuki.net/blog/index.cgi
info@kinoshita-toshiyuki.net (ご感想、情報など気軽にメールをください。)
■著書
 [ なぜ、改革は必ず失敗するのか-自治体の「経営」を診断する ]
データ・マックスにても取り扱い中




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