新長崎市立市民病院と日赤長崎原爆病院の統合問題には賛否両論がある。専門家に話を聞いた。
--病院統合案が出てきた経緯は
07年12月に国が出した公立病院改革ガイドラインに基づいて、県が病床を減らそうとし、長崎大が医師確保には大病院が必要としたから、出てきたのだろう。
--長崎市で病床を減らす必要があるのか
全国基準より長崎市の病床数は多いが、地域医療を考える場合、急性期や慢性期の患者の病床がどの程度必要か考えるのが本筋だ。「多いから減らす」は乱暴だろう。
--高機能病院として市案を不十分とする県の主張について
県は「市の案はすべての機能がないから」としているが、それは高機能病院否定にはつながらない。研修医が集まり、市の負担がゼロになるからという理由だけで統合を進めていいのだろうか。
--市案で医師を集める方法はあるのか
病院に医師を集めるには、優れた指導者が必要だ。新病院開院までに大学で指導者を育て、新病院に派遣し、若い医師を指導すれば医師は集まるのでは。医師不足とはいえ、年間7000~8000人の医学生が卒業している。全国公募という手もある。
--市の見直し案について
病床数以外は県案と並びつつある。病院機能をすべて網羅するのは無理で、莫大な費用がかかる。統合せずに、原爆病院とのすみわけを考えた方が、市民にとってはいい医療を提供できると思う。
--なぜ今「病院統合」なのか
市内は中小の病院が多いが、300床以上の病院は三つだけで、人口規模からすると少ない。24時間体制の救命救急センターもなくしっかりした病院を作るため、市民病院建て替えを機に原爆病院と統合するのがいい。
--大病院を作れば高度医療は可能か
箱だけ作っても機能しない。高度医療をリードできる医師が適正にいることが必要だ。04年度の新臨床研修制度導入で、研修医が大都市に流出している。県内の研修医減少が著しいのは、長崎市内に魅力的な病院がないためだ。早めに対処しなければ近い将来、極めて厳しい状況になる。
--統合の利点は
勤務医は今、忙殺され、疲弊し、新しい医学知識を勉強する時間もない。統合すればマンパワーを集約でき、時間に余裕が生まれて医療レベルが上がり、患者も医師も集まって、経営も成り立つ。
--長崎市は医師数を142人に増やす見直し案を出した
現在の市民病院は医師の大半が長大からの派遣だが、研修医流出などで、長大は医師派遣の限界が目の前にきている。市は独自で医師を集めると言うが、厳しいと思う。
--統合で医師不足は回避可能か
可能性は高くなる。今のままではジリ貧だ。統合の議論は医療政策というより、感情論の面がある。性急に結論を出さず、じっくり議論してほしい。
〔長崎版〕
毎日新聞 2009年1月28日 地方版