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公立病院:市民・原爆病院統合 県と市「高機能」必要性認識、県民に難解構図 /長崎

 県が提案した新長崎市立市民病院と日赤長崎原爆病院の統合問題は、長崎市の田上富久市長が(1)市の前計画(2)市の見直し案(3)県提案の病院統合案--の選択肢から2月中に決断する。だが、県と市は「高機能病院の建設が必要」との認識で共通するものの、いずれも自論を譲らず、対立は強まるばかり。県民にとってどちらがいいのか分かりにくい構図となっている。県、市の主張を比較した。【宮下正己、下原知広】

 ◇研修医不足も要因に

 ◆長崎市内の医療の現状

 長崎市内は人口10万人当たりの医師が374人で、全国平均の1・82倍。恵まれているようだが、一般病院・病床数も全国平均を上回り、県は「中小病院が多く、医師が分散し、勤務医が人手不足で忙殺されている」と分析する。300床以上の大規模病院は佐世保市が療養型を含め5病院あるが、長崎市内は3病院で人口規模に比べて少ないという。

 また、県内で救命救急センターがあるのは大村市の国立病院機構長崎医療センターのみで、長崎市内はがんセンターや周産期母子医療センターもない。

 一方で、04年度に新たな臨床研修制度が導入され、医師確保の問題もある。医学生が自由に研修先を決められるようになり、規模やスタッフが充実する大都市の病院に流出。県内はこの5年間で研修医が35%減の68人になった。中でも、県内最大の研修受け皿・長崎大は、募集定員90人に対する応募割合が毎年減り、08年4月は42・2%と5割を切った。

 県内の主要病院は長崎大からの医師派遣で成り立っているが、研修医不足から長崎大が医師を引き戻す現象が起きており、離島を含め医師不足が懸念されている。

 ◇教育研修機能を充実

 ◆市の新市立病院案

 老朽化と狭あい化が著しい現市民病院と、市立病院成人病センターを廃止・統合して新病院を建設するのが長崎市の計画。93年3月に市が策定した「新市立病院建設基本構想」から始まり、見直し案は今年1月22日に明らかにされた。

 早期治療が有効な「急性期」の患者に高度医療を提供する長崎地域の中核病院と位置付け、(1)救急医療(2)脳血管障害医療(3)心疾患医療(4)がん医療(5)周産期医療(6)災害医療--などの機能を備え、医師確保の拠点病院として教育研修機能も充実させる。建設地は、建設時期や医療の地域バランスなどを考慮し、現市民病院及び周辺地とした。

 前計画では、救命救急医療については「救命救急センターに準ずる機構」としていたが、「センター設置が望ましい」という国の指摘で、医師5人以上を配置する通常型の救命救急センターに変更。さらに、国が臨床研修指定病院を病床数500以上を条件に検討していることなども踏まえ、病床数や医師数も見直し、医師数は研修医などを含め142人、診療科目は20科目以上とした。

 採算面では、入院収益、外来収益、医業外収益などにより、市は「長期的に安定した病院運営ができる」とし、市の新市立病院建設検討プロジェクトチームは「県が考える高機能医療は、市の計画でも実現可能」。しかし、医師確保の面では「これまで同様に大学側に協力を求め、都会に出る学生を確実に確保する」。県と同じく、医師確保の保証はなさそうだ。

 ◇病床600常勤医100超可能

 ◆県の統合病院案

 県は統合病院を、長崎市の基幹病院を担う高機能病院として、がんや脳血管疾患など4疾病を中心に高度医療を提供するほか、(1)災害医療(2)救命救急医療(3)小児医療(4)周産期医療(5)被爆者医療--の体制を整える考え。魅力的な大規模病院があれば若い医師や患者も集まるとの公算だ。

 救命救急センターには常勤医100人以上が必要との認識だが、統合で可能と説明。研修医などを含めると、医師数183人、看護師482人、診療科目20科目以上で、病床数は600とする。建設地は市の現計画では狭いため、JR長崎駅裏のJR貨物と県が所有する約2万平方メートルでの建設を求めている。

 市への支援は、長崎駅裏の県所有地を無償貸与するほか、市民病院跡地の購入も検討。起債活用などで「市の大きな負担にはならない」と言う。赤字が生じても、県と市の一部事務組合運営により、折半も可能とする。

 市が見直し案を出したことで、医師数や病床数に差がないように見えるが、県は「長崎大の医師派遣が困難となる中、市独自の医師確保は困難」と指摘。また「見直し案の病床数では経営が成り立たない」と疑問視する。

 だが、統合しても、研修医が集まり、研修後も県内にとどまる保証はなく、県の主張に説得力が欠けるのは否めない。さらに、安定経営には市民病院の職員給与を原爆病院並みに削減するのが大前提。統合による余剰人員問題もあり、県は「市長が職員組合を納得させられるかが最大のハードル」と見る。

〔長崎版〕

毎日新聞 2009年1月27日 地方版

 
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