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生む義務か?生まぬ権利か?−中絶合法化をめぐる論争 |
2007/06/19 |
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ある経済学者が、ラテンアメリカでは妊娠した女性の3人に1人がこっそり堕胎医の門を叩くという調査結果を発表した。
何故こっそり叩くかというと、言うまでもなく、それが合法化されていないからである。キューバを除いてラテンアメリカ・カリブ諸国では、どの国でも合法化しているところはなかった。それが先4月、市長官をはじめ左派の議員が多数を占めるメキシコ市が、12週前までなら本人の意志で中絶してよいという条例を決めた。
これに怒ったのは市の大司教である。「それに賛成した連中は皆破門する」と宣言した。キリスト教、特にカトリックでは前々から中絶絶対反対を叫んでいた。法王庁からのお達しの最初に、「生命の福音はキリストの教えの中心をなすものであって、教会は日々新たにこれを受け入れ、あらゆる時代や文化を超えて、勇敢に守り通さねばならない。死の文化と生の文化の葛藤にさらされている現代の危機の中で、イエス・キリストはつねに生の文化を選ぶことを命じておられる(Evangelium Vitae)」とある。
ラテンアメリカは全般的にカトリック教会の威光が大きいが、約1億の人口の90%までがカトリック教徒であるメキシコでは、尚更、教会の言うことには忠実であろうと思いきや、左派の唯物論の前には時代遅れになったものとみえる。
以下、中絶合法化のニュースに付いた意見メールのいくつかを和訳して紹介する。
教会にはモラルを決める資格はない
「この事に良い悪いを言う道徳的資格は、カトリック教会にはありません。彼らはメキシコ中の何千という子供を犯す男色者のけがわらしいことに、せっせと蓋をすることに懸命です。ノルバルト枢機卿は大金持ちの政治家になろうとしている。マリア様に本当にイエスの母かどうか聞いてみたい。私たちには自分の身体のことを決める権利があります。
メキシコの女性の80%は望まなくて妊娠しています。私たちは教育もなく、食べ物もない子供たちが街路をさまよう姿を、これ以上見たくありません。私たちは、妊娠中絶の合法化といった社会正義のための改革すら認めようとしない、パン党のような極右の政治家たちが支配する途上国に住んでいます。女性たちよ、中絶を合法化すべきか、それともこれまでのように、こっそりソウハを続けるべきなのでしょうか」(ナディア・ドゥラン)
教会にはモラルを決める資格はない?
「それではいったい誰がそれを持っている? ナディア・ドゥランか? あらゆる点から見て、あなたには思想というものがない。言うまでもなくPRD(貝原注・中絶合法化を決めたメキシコ市の主流政党)を含めて、どの政党にもそれを決める権限はない。汎カトリック教会のみが、歴史的誤謬や現今の数々の罪悪と関係なくそれを持つのである。少なくとも神学の基礎を勉強されることをお勧めする」(サルバドール・ペドローサ)
カトリック教会にモラルを決める資格がある? 冗談じゃない!
「サルバドールさんよ。カトリック教会は、それができたときから世の中の進歩を遅らせることしかしてこなかった。イエスはローマ帝国のクビキと堕落したその宗教から、イスラエルを開放しようとした革命家だった。放埓者やいかさま師の1群が彼を神の子に祭り上げ、不幸にして今も見られる、あらゆる仰々しいことを作り出したのだ。教会の歴史をほんの少しだけ勉強すれば、彼らが淫売婦みたいに、時の権力者や金持ちにすり寄っていたことがわかる。
イエスは御殿に住んでいたか? デブの男色家だったか? 豪勢な車に乗っていたか?教会は征服当時から、腐った泥棒政治家のために人々を欺いてきた。何ゆえに法王はアメリカからイエズス会を追放したか?あなたはご存じないようだ。先住民を教育しようとしたからだ!それはカルロス5世にとってもバチカンにとっても具合の悪いことだった。彼らを奴隷として使えなくなるからだ。これは、教会が何故モラルを決める資格があるかないか、議論する必要もないという例である」(ダビッド・ガルシア・ロア)
ちなみに、日本でも堕胎罪は生きている(刑法・関連サイト:ウィキペディア、など)。しかし母体保護法によって、指定された医師の手によれば罪にされることはない。
(貝原幸夫)
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