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ボリビア:レイプでも中絶は禁止
2007/06/24

【ラパスIPS=ベルナルダ・クラウレ、6月8日】

 ボリビア憲法制定会議は憲法書き換え終了まであと2ヶ月を残すだけとなった。10ヶ月にわたった会議では、国際サッカー連盟(FIFA)が高地での国際試合を禁止したのを受け、サッカーの試合を高地で開催する権利についての条文だけが承認されている。

 左派の与党社会主義運動(MAS)が134名を占める、総勢255名の会議の委員により討論された懸案の中には、中絶の合法化に関連した生存権の問題がある。

 会議の「人権、義務、保障委員会」により示された、新憲法では受胎時から生存権を守るという提案は、女性の権利、特にレイプ被害者が望まない妊娠を中断する権利について、激しい議論を引き起こした。

 「沈黙を破る」と題された、行政監察委員事務所と非政府組織のCoordinadora de la Mujer が行った調査によると、届け出があった女性に対する身体的な攻撃の64%をレイプが占め、レイプ事件の被害者の過半数は未成年の少女だった。

 子供の権利のための国営通信(ANNI)のコーディネーターであるフリア・ベラスコ氏がIPSに提示した統計によると、南米のボリビアでは、少女への性的虐待で毎年200件程度の起訴がある。

 ボリビアでは女性の命を救う場合、身体的健康を守る場合、レイプあるいは近親相姦の場合には中絶が認められているが、実際には、レイプされて妊娠した少女が安全で合法的な中絶を受けるチャンスはほとんどない。

 カトリック教徒が圧倒的に多い南米で、人工中絶が合法的な国は、キューバ、ギアナ、メキシコだけである。

 さらに、ニカラグア以外のすべての国では、レイプの場合、治療的流産は合法とされるが、そうした状況におかれた女性はたいてい、裁判所から許可を得るための時間のかかる複雑な行政と司法の手続きに煩わされ、その後で安全な状況で中絶を行ってくれる業者を探すことになる。

 多くの場合、女性たちがたどり着くのは、不衛生な状況で行われる闇の中絶である。

 右派の野党、ポデモス同盟は、受胎した瞬間から生存権を保障するという動議を憲法制定会議に提出し、過熱する論争の口火を切った。この条文には、MASのロヨラ・グズマン氏を含む委員会の3名が反対したが、野党同盟が過半数を占める人権委員会は承認した。

 規定により、委員会で満場一致の賛成が得られない条文は、全体会議で討議と投票を行わなければならないため、この問題は憲法制定会議の総会で決議される。

 総会で承認されない条案は、憲法案の是非を問う国民投票によって直接決定することになる。

 「胎児の生存権は、他の法律にそれと矛盾する可能性のある一節が制定されないように、憲法で守られるべきだ」とボリビア・サンパブロ・カトリック大学生命倫理研究所のミゲル・マンザネラ所長はいう。

 一方、グズマン氏は新憲法が、ボリビアも1979年に調印した「人権に関する米州条約」で制定された内容を反映すべきだと主張している。

 この条約の第4条には「すべての人間は生命を尊重される権利を有する。その権利は法律により、一般的に、受胎の瞬間から守られなければならない。何人も独断的に命を奪われることがあってはならない」と定められている。

 この「一般的に」という言葉を、グズマン氏は強調する。「生存権は一般的に認識されると定めており、これはレイプによる妊娠といった、特別の状況もまた認められるということだ」とグズマン氏はIPSの取材に応じて語った。

 非政府組織である「女性と憲法制定会議プロジェクト」も同様の見方をしており、この組織は生殖権とともに生存権を尊重するよう提案する文書を作成した。

 「中絶の問題は憲法の書き換えプロセスの一部としてではなく、国内法令の議論と起草の場で取り組むべきだ」とプロジェクト・コーディネーターのカチア・ウリオラ氏はIPSに解説した。

 最近、複数の女性団体が東部のサンタクルス市で、「レイプ被害者の少女は母親になりたくない」と書いた看板を掲げて抗議行進を行った。

 地元の女性人権団体であるレッド・アダは、2006年の1〜8月にサンタクルス市だけで250人の未成年のレイプ被害者の記録を作成している。この東部地方のDefensoría de la Niñez(子供行政監察委員事務所)の調べによると、248件は13〜15歳の少女が被害者だった。

 国際的な「自由な選択のためのカトリック」の提携組織であるCatólicas por el Derecho a Decidir (CDD)は、ボリビアでは全レイプ事件の10%しか報告されていないと推測している。

 「というのも成人女性あるいは少女が提訴しても、判事や医師、およびその他の医療スタッフは詮索するような態度を示すからだ」とCDDボリビアのコーディネーターであるテレサ・ランサ氏はIPSの取材に応じて語った。

 昨年、中部のコチャバンバ地域では、10歳で妊娠させられたレイプ被害者の1人が、中絶を法的に認めてもらうために、あちこちの法廷を回ったが、ボリビア産婦人科学会が妊娠は少女の生命に危険を及ぼすと明確に証明しているにもかかわらず、認められなかった。

 けれども法の裁定も保障になりえない。2002年にコチャバンバにあるビエドマ公立病院の医師は、義理の父親にレイプされた12歳の少女の中絶手術を、裁判官が中絶を許可したにもかかわらず拒否した。結局、その少女は違法な闇の中絶を受けた。

 サムエル・センテノ弁護士は、憲法制定会議が受胎の瞬間からの生存権に関する条文を認めるのなら、レイプや妊婦の健康や生命に危険がある場合は中絶を合法とする法律を成文化しなければならないだろうとIPSの取材に応じて語った。

 「法律を成文化しなければ法の空白が創出されて判事によって異なるさまざまな解釈が生まれてしまう。こうした状況において、レイプされた女性は性的虐待に加えて不快な行政および法律上の手続きに直面しなければならず、コチャバンバで起きた例と同じように、二重に犠牲者となる」と同弁護士は言い添えた。

 しかしながら、女性人権活動家は明確に成文化した法律だけでは解決にならないと主張する。

 「ボリビアの女性は、司法行政の難しさだけでなく、根本的に、性的暴行は正常と見られる文化的社会的現実のために、法的保護をあまり利用できない」とウリオナ氏はいう。

 南米でもっとも貧しい国ボリビアでは、妊産婦死亡率は出生数10万当たり420であり、闇の中絶から引き起こされる合併症は妊産婦が死亡する原因の第3位となっている。

 CDDとレッド・アダによると、人口900万のこの国では毎日およそ115件の闇の中絶が行われている。

 中絶の議論は他の中南米諸国でも起きている。4月にメキシコシティの市議会は中絶を合法化した。5月末にはアルゼンチンの250のNGO組織が中絶を合法化する法案の草稿を提出した。ブラジル政府は、2月の投票で有権者が議会は中絶を合法化してよいと判断したポルトガルの例に倣い、この問題を国民投票に図ることを検討している。(原文へ

翻訳=加藤律子(Diplomatt)/IPS Japan浅霧勝浩

IPS関連記事/関連サイト:
コロンビア、妊娠中絶の部分解禁で破門された判事
メキシコシティー:堕胎は犯罪ではなくなった
チリ:深刻化する『望まない妊娠』

(IPSJapan)

今回はラパスIPSのベルナルダ・クラウレより、人工中絶をめぐるボリビアの憲法制定会議の議論について報告したIPS記事を紹介します。(IPS Japan浅霧勝浩)







ボリビアでは女性の命を救う場合、身体的健康を守る場合、レイプあるいは近親相姦の場合には中絶が認められているが、実際には、レイプされて妊娠した少女が安全で合法的な中絶を受けるチャンスはほとんどない。カトリック教徒が圧倒的に多い南米で、人工中絶が合法的な国は、キューバ、ギアナ、メキシコだけである。 資料:Envolverde







南米でもっとも貧しい国ボリビアでは、妊産婦死亡率は出生数10万当たり420であり、闇の中絶から引き起こされる合併症は妊産婦が死亡する原因の第3位となっている。CDDとレッド・アダによると、人口900万のこの国では毎日およそ115件の闇の中絶が行われている。 資料:Envolverde




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