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この人に聞きたい:県がんセンター長・竜崇正さん /千葉

 ◇「連携」で医療の質向上へ--「がん難民」出さない地域拠点病院体制

 3人に1人ががんで亡くなる時代。がん対策の最前線で戦略面のリーダーを務める県がんセンター長、竜崇正さん(65)は、もともと職人的な外科医だが「日本一のがん医療先進県に」と創意工夫し、走り回る。現状と課題解決への道筋を聞いた。

 --センターの運営方針は

 ▼がんになった方を一刻も早く治療し確実に治す、が基本です。技術者の増員や電子カルテ化、機構改革を進め、患者さんをすぐ診察し入院させる体制にした。標準治療が全体の7割。副作用の少ない強度変調放射線治療(IMRT)など先端治療が1割、残り2割が患者の立場に立った緩和医療の3本柱。入院患者の実数は4年前の4000人から7000人に増えています。

 --がん対策基本法に伴い「一人のがん難民も出さない」と県の推進計画もできた

 ▼地域がん診療連携拠点病院の体制が整い、動き出している。良かったのは拠点病院を「1医療圏に一つ」でなく「人口50万人に一つ」で計12病院、例えば東葛南部圏で三つ、東葛北部圏で二つにしたこと。地域の診療所や訪問看護ステーションとも連携でき、治療後の健康管理や再入院がスムーズになる。医師会も熱心です。順天堂大浦安、慈恵医大柏、千葉大系の病院が連携するのも大きい。

 --計画では「10年後がん死亡率20%減少が目標」と

 ▼力を入れているのが「ベンチマーク」。病院同士、医療の質を比較・検証し合う。情報開示し切磋琢磨(せっさたくま)しようと。1年前、全国五つのがんセンター(千葉、栃木、神奈川、愛知、四国)で研究会をスタートした。5大がん(胃、大腸、肺、乳、肝臓)の治療で、入院日数や手術時間、合併症の率などを比較する。地方によって治療の文化は違う。例えば胃の手術後のご飯は千葉は1週間後だが四国は4日後で大丈夫だと。「われわれも4日に」と長所を取り込んで治療計画が変わり、質の向上につながる。

 --県内の拠点病院でも

 ▼はい。2月に比較・検証を始めます。各病院のデータは少なくても、世界初の試み。病院のブランド力にもなる。研究面でも抗がん剤治療などで臨床試験を協力し、世界に提案していきたい。

 --「日本一の先進県に」を掲げる根拠は

 ▼千葉県は34年前「地域がん登録」を条例化し進めてきた。がん登録法がない日本ではがん生存率は類推値でしかないが、千葉は正確に分かる。胃がんの死亡が多い地域に検診を集中させて死亡率を下げる、という戦略です。旭中央や亀田総合は全国から医者が集まる病院。テレビ会議や合同の画像診断、歯科医師会と協力して口腔(こうくう)ケアも。

 --患者側の視点も

 ▼がんセンターでは患者相談支援センターを立ち上げ、ソーシャルワーカー、音楽、心理療法士も加わり運営している。患者団体の提案で、がん体験者にも参加してもらう。「サポーター」として医者の説明を患者にやさしく翻訳する事業を始めたい。

 --医療の問題は山積だが

 ▼地域医療は崩壊の危機。先進国最低の医療費政策や医療不信で訴訟も増え、医者が病院から逃げ、大学の医局も人材供給や教育研究体制が崩れている。医療は何より人ですが、人材育成は時間がかかる。このままでは医者がいなくなりレベルも落ちる。県立病院群として研修医を公募したり病理医を集めたり努力するが、資金カットばかりで……。地域医療も、在宅支援診療所も、救急医療も厳しい。

 --解決策は

 ▼国が税制も含め考えるしかない。世界一の長寿国で国民皆保険、がんや出産時死亡率も世界一低い。これを崩さないでほしい。われわれも暗くなっていられない。倹約ではなく適切な計画で良い治療をして多くの患者を受け入れ、収入を上げる。がん対策を突破口に、みんなで連携して国民の信頼を得ていけば活路は開けると信じています。【聞き手・武田良敬】

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 ■人物略歴

 ◇りゅう・むねまさ

 東京都武蔵野市生まれ。1968年千葉大医学部卒業。欧州アルプス登はんや病院勤務を経て千葉大第二外科助手。肝・胆・膵(すい)がんの外科医として県がんセンター消化器外科医長、国立がんセンター東病院手術部長を歴任。00年県立佐原病院長を経て05年から現職。県がん対策審議会副会長も務める。

毎日新聞 2009年1月27日 地方版

 
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