STOPクラスター爆弾

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禁止条約 市民の視点が新しい地平開いた=論説副委員長・中井良則

 兵器の違法化と市民の想像力。二重の意味をクラスター爆弾禁止条約に読み込むことができる。人間が犯す理不尽を繰り返してはならない。そう決意し、軍縮交渉オスロ・プロセスに結集した市民と軍縮の有志政府連合は、平和への新しい構想力を結実させた。

 クラスター爆弾を正当化する軍事思想がある。多数の子爆弾を広い範囲にばらまき、その地域を制圧する。市民をも標的とする無差別攻撃が戦勝に役立つという戦略だ。市民に恐怖感を広げ、戦意を失わせるテロリズムである。敵国を「文明化されていない劣った人々」と蔑視(べっし)する差別意識が背景にある。

 米軍が日本空襲で使った焼夷(しょうい)弾もクラスター型の兵器だった。ベトナムからアフガニスタン、イラクと世界中で使われた。不発弾にさわっただけで手足をもがれ、命を失う。爆撃を命じる将軍や政治家は、子供の苦痛は想像しない。それを考えていては戦争に勝てない、と発想する。

 フランスの格言はいう。「戦争はあまりに重大で将軍たちに任せられない」

 クラスター爆弾の被害はあまりにも大きく、罪なき犠牲者の悲しみはあまりにも深い。高空から見えない地上の人々を破壊する将軍の視点を否定し、名もなき死者が最後に見た家族やふるさとの緑、空の青さを想像する。それが、爆弾を禁止する市民の視点だ。

 20世紀は、戦争を制限する国際法に取り組んだ世紀でもある。戦闘の手段や方法はもはや国家が勝手に選べない。たとえば、発効から30年たつジュネーブ条約第1追加議定書は住民と軍事目標を区別しない無差別攻撃を禁止した。

 この国際法の原則をクラスター爆弾に適用し禁止する。当たり前の展開に思えるが、主権国家だけの外交交渉ではまとまらなかった。戦争で役立つからという軍人の論理が優先した。市民組織と一部の国が旧来の外交を見捨て、新たな枠組みであるオスロ・プロセスに踏み出したから禁止条約が作れた。

 米国や中露など非署名国も新たな国際規範を守り、爆弾使用を中止すべきだ。

 カントは「永遠平和のために」で誇らしく書いた。「地上の民族のもとにあって、すでに共同の意識はいきわたっており、地球上のどこかで生じた法の侵害は、どこであれひとしく感じとられる」(池内紀訳)

 人間は愚かな戦争を繰り返した。だが、誤りを防ぐ意志も持つ。「共同の意識」と死者の側に立つ想像力が21世紀の平和をつくる。

毎日新聞 2008年12月4日 東京朝刊

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