中野は早速、非同期ライブ構想をとりいれたプロトタイプの開発に取り掛かった。
開発にあたってコメントの対象となる動画を用意する必要があったが、「できるだけ考える時間を多くとるために作業時間を短縮したい」という思いがあり、他の動画投稿サイトの動画を流用することで解決した。また、「ライブ感覚を出すために最も重要なのは動画に対して書き込まれるコメントの共有だ」と考え、動画の画面横に再生時間にあわせてチャットのようにコメントが表示されていく掲示板を設ける形で設計。およそ3時間でプロトタイプの第一弾が完成した。
しかし、完成したプロトタイプを使用してみると、全員がすぐにその欠点に気が付いた。
これでは動画表示エリアとコメント表示エリアを往復して見なければならず、使い勝手が悪すぎて、ライブ感の共有などとてもできない
再度議論を重ね、検討の末に生まれた解決策が、「コメントを動画の画面上にオーバーラップしてしまおう!」というものだった。そうすることで、動画そのものは見づらくなるが、動画とコメントに一体感が生まれ、他の人と「場の雰囲気」を共有している感覚が生まれるのではないかと考えたのである。早速、中野からプロトタイプの開発を引き継いで担当していた他社のエンジニアが、コメントオーバーラップ機能を実際にプレイヤに実装。できあがったプロトタイプを見て、「これならいける!」と全員が確信した。
研究開発本部 研究開発部 技術支援セクション
【戀塚 昭彦】
「ニコニコ動画」の基礎となるプロトタイプを短期間で開発したプログラミングのスペシャリスト。現在も「ニコニコ動画」に関する様々な開発の技術支援を行っている。
「実際にサービスとして開始して、ユーザーの反応を見てみたい!」と考えた中野らは、公開にあたり一番重要になってくるのは、将来的に2ch規模のアクセスがあっても処理できるようなコメントシステムの開発であるという結論に至った。そこで、2chの仕組みにも精通しているドワンゴの技術者である【戀塚】にコメントサーバの開発を依頼。最終的には短期間での作業を実現するためにプレイヤを含めた全ての開発を戀塚一人に委ねた。
依頼してからわずか3営業日後、戀塚が持ってきたプロトタイプは、膨大なアクセスに耐えられるコメントサーバの仕組みだけでなく、コメントの長さに応じて画面を流れる速度を調整する仕組み、コメント同士が衝突しない仕組み、盛り上がりすぎてコメントが多くなった場面はあえてコメント同士を重ねて大量に表示するという後の弾幕モードと呼ばれる仕組み、といったユーザー視点での工夫が随所に盛り込まれていた。
構想からおよそ4ヶ月、ようやく「ニコニコ動画」の原型が誕生したのである。