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【発明の名称】 臓器の機能不全又は変性に起因する疾患の治療剤
【発明者】 【氏名】水野 純子

【要約】 【課題】

【解決手段】一本鎖HGFを有効成分とする腎疾患治療剤、肝疾患治療剤、心疾患治療剤、尿細管細胞の増殖促進剤、糸球体の線維化抑制剤、及び傷害臓器特異的治療剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本鎖HGFを有効成分として含有することを特徴とする、臓器の機能不全または変性に起因する疾患の治療剤。
【請求項2】
一本鎖HGFがヒト、イヌ、ネコ、マウスまたはラット由来のHGFである請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
臓器の機能不全または変性に起因する疾患が腎疾患である請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
腎疾患が急性腎不全または慢性腎不全である請求項3に記載の治療剤。
【請求項5】
腎疾患が、外傷、熱症、感染症、敗血症、溶血、虚血または薬剤等の中毒に起因する急性腎不全である請求項3に記載の治療剤。
【請求項6】
腎疾患が、糸球体腎炎、糖尿病性腎炎、尿細管腎炎、腎硬化症、嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、悪性高血圧、SLE、アミロイドーシスまたは痛風に起因する慢性腎不全である請求項3に記載の治療剤。
【請求項7】
臓器の機能不全または変性に起因する疾患が肝疾患である請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項8】
臓器の機能不全または変性に起因する疾患が心疾患である請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項9】
傷害臓器に特異的である請求項1〜8のいずれかに記載の治療剤。
【請求項10】
一本鎖HGFを有効成分として含有することを特徴とする尿細管細胞の増殖促進剤。
【請求項11】
一本鎖HGFを有効成分として含有する糸球体の線維化抑制剤。
【請求項12】
一本鎖HGFを有効成分として含有する傷害臓器特異的治療剤。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は臓器の機能不全または変性に起因する疾患の治療剤に関し、更に詳しくは一本鎖の肝細胞増殖因子(以下、HGFと略記する。)を有効成分とする疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HGFは、生体内で不活性型の一本鎖HGFとして合成された後、プロテアーゼによって活性化され、活性型の二本鎖HGFになる。一本鎖HGFは生物活性を有さないことから、二本鎖HGFへの変換は生物活性の発現には必須である。HGFを活性化させるプロテアーゼとしては血液中に含まれる、HGFアクチベータ(HGFA)やマトリプターゼ等が知られている。
一本鎖HGFは、生物活性は有さないが、レセプターであるc−Metに対する親和性は保持している(非特許文献1参照。)。このため、一本鎖HGFを投与すると、HGFアンタゴニストとして働き、c−Metの活性化を阻害する。また、一本鎖HGFは、二本鎖HGFの活性も阻害する(非特許文献2参照。)。よって、HGFを投与して治療を行うには二本鎖HGFを用いることが望ましいと考えられていた。
【非特許文献1】ザ・イー・エム・ビー・オー・ジャーナル(The EMBO Journal)、1992年、第11巻(第7号)、p.2503−2510
【非特許文献2】ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)、2004年、第114巻(第10号)、p.1418−1432
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、一本鎖HGFの新たな用途を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
(i) 急性腎不全および慢性腎不全を誘発した動物に一本鎖HGFを投与すると、いずれの腎不全に対しても生理学的または病理学的に優れた治療効果を奏する。
(ii) 肝炎、肝硬変を初めとする肝臓疾患を誘発した動物に一本鎖HGFを投与すると、いずれの肝臓疾患に対しても優れた治療効果を奏する。
(iii) 心疾患を誘発した動物に一本鎖HGFを投与すると、いずれの心疾患に対しても優れた治療効果を奏する。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、下記の治療剤を提供する。
項1. 一本鎖HGFを有効成分として含有することを特徴とする、臓器の機能不全または変性に起因する疾患の治療剤。
項2. 一本鎖HGFがヒト、イヌ、ネコ、マウスまたはラット由来のHGFである項1に記載の治療剤。
項3. 臓器の機能不全または変性に起因する疾患が腎疾患である項1または2に記載の治療剤。
項4. 腎疾患が急性腎不全または慢性腎不全である項3に記載の治療剤。
項5. 腎疾患が、外傷、熱症、感染症、敗血症、溶血、虚血または薬剤等の中毒に起因する急性腎不全である項3に記載の治療剤。
項6. 腎疾患が、糸球体腎炎、糖尿病性腎炎、尿細管腎炎、腎硬化症、嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、悪性高血圧、SLE、アミロイドーシスまたは痛風に起因する慢性腎不全である項3に記載の治療剤。
項7. 臓器の機能不全または変性に起因する疾患が肝疾患である項1または2に記載の治療剤。
項8. 臓器の機能不全または変性に起因する疾患が心疾患である項1または2に記載の治療剤。
項9. 傷害臓器に特異的である項1〜8のいずれかに記載の治療剤。
項10. 一本鎖HGFを有効成分として含有することを特徴とする尿細管細胞の増殖促進剤。
項11. 一本鎖HGFを有効成分として含有する糸球体の線維化抑制剤。
項12. 一本鎖HGFを有効成分として含有する傷害臓器特異的治療剤。
【発明の効果】
【0005】
本発明の治療剤は、臓器の機能不全又は変性、特に腎不全のような腎疾患、肝疾患、心疾患等に対して優れた治療効果を奏する。腎疾患の治療においては、尿細管細胞の増殖を促進し、糸球体の線維化を抑制し得る。
また、本発明に使用される一本鎖HGFは、傷害臓器において活性型のHGFとなり得るので、健常な臓器に影響を与えることなく、傷害臓器で治療効果を発揮し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
一本鎖HGF
本発明で使用される一本鎖HGFは公知物質であり、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。一本鎖HGFとしては、例えばNCBIのデータベース等に登録されている登録番号P14210(配列番号1)またはNP_001010932(配列番号2)で表されるアミノ酸配列で示されるヒト由来HGF;登録番号NP_001002964(配列番号3)、BAC57560等で表されるアミノ酸配列で示されるイヌ由来HGF;登録番号NP_001009830(配列番号4)、BAC10545、BAB21499等で表されるアミノ酸配列で示されるネコ由来HGF;登録番号AAB31855、NP_034557(配列番号5)、BAA01065,BAA01064等で表されるアミノ酸配列で示されるマウス由来HGF;または登録番号NP_058713(配列番号6)等で表されるアミノ酸配列で示されるラット由来HGF等が好ましく挙げられるが、これらに限定されない。配列番号1乃至6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は天然の一本鎖HGFであって、活性化されるとHGFとしての遊走活性、形態形成活性等を有する。
【0007】
一本鎖HGFは、活性化されてHGFと実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数個(例えば、約2〜20個、好ましくは約2〜10個;以下同様である。)のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失若しくは付加されていてもよい。そのような一本鎖HGF、例えば上記した配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一である一本鎖HGFとしては、例えば配列番号1で表されるアミノ酸配列の第161〜165番目の5個のアミノ酸残基が欠失している配列番号2で表される一本鎖HGF(5アミノ酸欠損型HGF)やNCBIのデータベースに登録されているAccession No.BAA14348またはAAC71655等のヒト由来の一本鎖HGF、あるいは上記したイヌ、ネコ、ラットまたはマウスの一本鎖HGF等を挙げることができる。ここで、アミノ酸配列について、「1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的手段により、または天然に生じうる程度の数(1〜複数個)が、欠失、置換若しくは付加等されていることを意味する。糖鎖が置換、欠失若しくは付加した一本鎖HGFとは、例えば天然の一本鎖HGFに付加している糖鎖を酵素等で処理し糖鎖を欠損させた一本鎖HGF、また糖鎖が付加しない様に糖鎖付加部位のアミノ酸配列に変異が施されたもの、あるいは天然の糖鎖付加部位とは異なる部位に糖鎖が付加するようアミノ酸配列に変異が施されたもの等をいう。具体的には、例えばNCBIのデータベースに登録されている登録番号NP_001010932のヒトHGFに対し、糖鎖付加部位の289位AsnをGlnに、397位AsnをGlnに、471位ThrをGlyに、561位AsnをGlnに、648位AsnをGlnにそれぞれ置換することによって糖鎖が付加しないようにしたHGF[Fukuta K et al., Biochemical Journal,388,555-562(2005)]等を挙げることができる。
さらに、一本鎖HGFのアミノ酸配列と少なくとも約80%以上の相同性を有する蛋白質、好ましくは約90%以上の相同性を有する蛋白質、より好ましくは約95%以上の相同性を有する蛋白質であって、かつ活性化されるとHGFと実質的に同質の活性を有する蛋白質も本発明に使用される一本鎖HGFに含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。
【0008】
本発明に用いられる一本鎖HGFは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシラート[−COOM(Mは金属を示す)]、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチル等のC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル等のC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチル等のC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチル等のフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチル等のα−ナフチル−C1−2アルキル基等のC7−14アラルキル基のほか、アセチルオキシメチル、ピバロイルオキシメチル等のC2−6アルカノイルメチル基等が用いられる。本発明で用いられる一本鎖HGFが、C末端以外にカルボキシル基またはカルボキシラートを有している場合、カルボキシル基またはカルボキシラートがアミド化またはエステル化されているものも本発明における一本鎖HGFに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステル等が用いられる。さらに、本発明に用いられる一本鎖HGFには、上記した蛋白質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の反応性基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾリル基、インドリル基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質等の複合蛋白質等も含まれる。
【0009】
本発明に用いられる一本鎖HGFは塩を形成していてもよい。塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)との塩等が挙げられる。
【0010】
上記一本鎖HGFは、HGFを活性化させる酵素が含まれない環境、例えばHGFを産生する初代培養細胞や株化細胞を血清を添加せずに培養し、培養上清等から分離、精製して一本鎖HGFを得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法により一本鎖HGFをコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に挿入して形質転換し、この形質転換体を無血清状態で培養し、培養上清から目的とする組換え一本鎖HGFを分離すること等により得ることもできる。(例えば、特開平5−111383号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.1989年、第163巻,p.967等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母、麹菌、昆虫細胞、植物細胞または動物細胞等を用いることができる。或いは、バキュロウイルスをヨトウ蛾或いはカイコの幼虫或いはサナギに接種する方法を用いることができる(例えば、WO01/092332号公報記載の方法)。或いは、適当なベクターによりカイコ、植物等の体内にHGFを活性化させる酵素を保有していない生物のゲノム遺伝子中にHGF遺伝子を組み入れ、得られたトランスジェニック生物の体液中等に発現させる方法なども用いることができる。
【0011】
腎疾患
本発明において、「腎疾患」は、腎血流量低下をきたす全ての状態をいい、間質性腎炎を含む尿細管上皮傷害を受ける場合、小血管傷害を含む糸球体が傷害を受ける場合を含む。腎疾患としては、具体的には、例えば急性腎不全または慢性腎不全等が挙げられる。
【0012】
急性腎不全は、さまざまな原因により間質を含む尿細管が傷害を受けて腎機能が数日ないし数週間の経過で腎臓の機能が急激に低下した状態をいい、その症状としては、通常、BUNやCreの上昇、電解質異常、アシド−シス、乏尿、血尿、尿中β2-マイクログロブリンの上昇、尿中NAG(N−アセチルグルコサミニダーゼ)の上昇等が挙げられる。 急性腎不全の原因としては、例えば、外傷、熱症を含む大怪我やショック、感染症、敗血症、著しい溶血、虚血または薬剤の中毒等が挙げられる。外傷には、クラッシュ症候群等が含まれる。感染症には、腎盂腎炎や感染性間質性腎炎等が含まれる。溶血には、赤血球が血管内で異常に早く破壊されて早朝のヘモグロビン尿を特徴とする発作性夜間血色素尿症(PNH)、不適合輸血または人工心肺使用時の溶血等が含まれる。薬剤としては、例えばβラクタム剤、アミノグリコシド、サイアザイド系利尿剤、ワーファリン、非ステロイド系消炎鎮痛剤等が挙げられる。また、薬剤には、塩化水銀等の重金属;メタノ−ル、四塩化炭素等の有機溶剤;パラコート等の農薬やその他の尿酸、造影剤、または蛇毒等が含まれる。
【0013】
慢性腎不全は、数ヶ月から数年かけて徐々に進行した腎炎をいい、その症状としては、急性腎炎と同様であるが、一般にヒトでは血清Cre値が2mg/dL以上あるいはBUNが20mg/dL以上を持続しているものが挙げられる。また、イヌではCre値が2mg/dL以上、ネコではCre値が3mg/dL以上を維持しているものが挙げられる(インターナショナルレーナルインテレストソサイアティー;IRISの基準)。
慢性腎不全の原因としては、例えば、糸球体腎炎、糖尿病性腎炎、尿細管腎炎、腎硬化症、嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、悪性高血圧、SLE(systemic lupus erythematosus;全身性エリテマトーデス)等の免疫疾患、アミロイドーシスまたは痛風等が挙げられる。犬、猫については、免疫疾患とは別の機構にて慢性腎不全が発症すると考えられているが原因については十分解析されていない。
肝疾患
本発明において、「肝疾患」の種類は特に限定されない。その症状としては、肝臓の変性壊死、肝臓の炎症、肝臓の合成機能の低下、肝臓の代謝機能の低下、線維化、胆汁のうっ滞、虚血などが挙げられる。また、疾患名としては、慢性肝炎、急性肝炎、劇症肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変症、薬剤性(毒物性を含む)肝障害、虚血による肝障害、ルポイド肝炎、脂肪肝、原発性肝臓癌、転移性肝臓癌、溶血性黄疸、閉塞性黄疸などが挙げられる。犬に関しては、中でも、先天性或いは後天性の門脈大静脈短絡症が知られており(Comparative Hepatolory 2005 Dec 7;4:7)、一本鎖HGFは、この治療に有効である。
心疾患
本発明において、「心疾患」の種類は特に限定されない。例えば、心不全;細菌性又は非細菌性の心内膜炎;僧帽弁口狭窄、僧帽弁閉鎖不全、大動脈弁口狭窄、大動脈弁閉鎖不全のような心臓弁膜症;急性心膜炎、慢性収縮性心膜炎のような心膜炎;心筋炎;狭心症;心筋梗塞;心臓性喘息;肺性心;突発性心筋症;心臓神経症などが挙げられる。犬の心疾患に関しては、線維化を伴う拡張性心筋症に対して一本鎖HGFは治療に有効である。また、犬に多い、憎帽弁閉鎖不全症に関しても、要因と考えられているコラーゲン線維の蓄積を抑制するため、一本鎖HGFは治療に有効である。
【0014】
治療
本発明において、「治療」とは、臓器の機能不全や変性の症状を緩解、または完治させることをいう。
腎疾患の場合は、「治療」には、例えば、腎疾患における血液中の血中尿素窒素(以下、BUNと略記する。)やクレアチニン(以下、Creと略記する。)の上昇、電解質異常、アシドーシス、乏尿或いは多尿等を抑制または防止し、正常化させることが含まれる。また、該治療には、尿細管細胞が変性したり減少したりしている部位において、尿細管細胞を増殖促進させること等も包含される。従って、一本鎖HGFは尿細管細胞の増殖促進剤の有効成分としても使用できる。また、該治療には、糸球体が線維化されるのを抑制または防止すること等も包含され、これらの結果、糸球体濾過量の改善、尿細管での再吸収能の改善による尿比重の改善等の効果も含まれる。従って、一本鎖HGFは糸球体線維化抑制剤の有効成分としても使用できる。
肝疾患の緩解、または完治には、各肝疾患の診断に使用される自覚症状や検査値異常等の1又は2以上の正常化又は正常化傾向が含まれる。心疾患の緩解、または完治には、各心疾患の診断に使用される自覚症状や検査値異常等の1又は2以上の正常化又は正常化傾向が含まれる。
また前述したように、一本鎖HGFは正常臓器に影響を与えることなく、傷害臓器の機能不全又は変性を特異的に治療することから、一本鎖HGFを含む治療剤は傷害臓器特異的治療剤ともなり得る。この場合の、傷害臓器の治療、即ち当該臓器障害の緩解、または完治には、その臓器障害の診断に使用される自覚症状や検査値異常等の1又は2以上の正常化又は正常化傾向が含まれる。
剤型
【0015】
本発明の治療剤を患者に投与する場合、その製剤は、種々の製剤形態、例えば液剤、固形剤等をとりうるが、一般的には一本鎖HGFのみを、またはそれを慣用の担体と共に注射剤、徐放性製剤(例えば、デポ剤)等に製剤されるのが好ましい。上記注射剤は、水性注射剤または油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)またはpH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等)等を適宜添加した溶液に、一本鎖HGFを溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。また適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)または非イオン界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50等)等をさらに配合してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油または大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコール等を配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルまたはバイアル等に充填される。注射剤中の一本鎖HGF含量は、通常約0.0002〜0.2w/v%、好ましくは約0.001〜0.1w/v%に調製され得る。なお、注射剤等の液状製剤は、凍結保存または凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
【0016】
また、本発明で用いられる一本鎖HGFは、生体分解性高分子と共に、徐放性製剤(例えばデポ剤)とすることもできる。一本鎖HGFは特にデポ剤とすることにより、投薬回数の低減、作用の持続性および副作用の軽減等の効果が期待できる。該徐放性製剤は公知の方法に従って製造することができる。本徐放性製剤に使用される生体内分解性高分子は、公知の生体内分解性高分子のなかから適宜選択できるが、例えばデンプン、デキストランまたはキトサン等の多糖類;コラーゲンまたはゼラチン等の蛋白質;ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリロイシン、ポリアラニンまたはポリメチオニン等のポリアミノ酸;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体;ポリカプロラクトン、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ酸無水物またはフマル酸・ポリエチレングリコール・ビニルピロリドン共重合体等のポリエステル;ポリオルソエステルまたはポリメチル−α−シアノアクリル酸等のポリアルキルシアノアクリル酸;ポリエチレンカーボネートまたはポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート等が挙げられる。好ましくはポリエステル、更に好ましくはポリ乳酸または乳酸−グリコール酸共重合体である。ポリ乳酸または乳酸−グリコール酸共重合体を使用する場合、その組成比(ポリ乳酸または乳酸/グリコール酸)(モル%)は徐放期間によって異なるが、例えば徐放期間が約2週間ないし3カ月、好ましくは約2週間ないし1カ月の場合には、約100/0乃至50/50が好ましい。該ポリ乳酸または乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量は、一般的には約5,000乃至20,000が好ましい。ポリ乳酸または乳酸−グリコール酸共重合体は、公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の製造法に従って製造できる。生体分解性高分子と一本鎖HGFの配合比率は特に限定はないが、例えば生体分解性高分子に対して、一本鎖HGFが約0.01〜30w/w%が好ましい。
【0017】
投与対象
本発明の治療剤は、ヒトのほか、ヒト以外の哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ラット、マウス、フェレット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、ハムスター、モルモット、チンパンジー等にも適用できる。特にヒトに好適に使用できる。心疾患の治療剤である場合は、犬のような動物にも特に有効である。
また、腎疾患の治療剤である場合は、各腎疾患に羅患している哺乳動物に投与するのが好ましく、尿細管細胞の増殖促進剤である場合は、尿細管細胞が変性又は減少している哺乳動物に投与するのが好ましく、糸球体の線維化抑制剤である場合は、糸球体が線維化しつつある哺乳動物又はその前段階である蛋白尿の症状を呈している哺乳動物、特に人や、動物では猫に投与するのが好ましい。
肝疾患の治療剤である場合は、各肝疾患に羅患している哺乳動物に投与するのが好ましく、心疾患の治療剤である場合は、各心疾患に羅患している哺乳動物に投与するのが好ましい。
治療方法
本発明の臓器の機能不全又は変性に起因する疾患の治療剤の投与方法としては、注射剤を皮下、筋肉、静脈注射などが挙げられる。腎疾患の治療に際しては、腎動脈局所注入するか、直接腎臓の糸球体に近い部位に注射するか、あるいは徐放性製剤(デポ剤)を腎臓の糸球体に近い部位に埋め込む方法も好ましく挙げられる。肝疾患の治療に際しては、点滴静脈注射の方法も好ましく挙げられる。心疾患の治療に際しては、カテーテルを用いた心臓への局所投与の方法も好ましく挙げられる。
また、投与量は、投与する動物の種類、剤形、疾患の程度または年齢、体重等に応じて適宜選択されるが、通常、1回当たり約1μg〜500mg、好ましくは約10μg〜100mg、さらに好ましくは約50μg〜15mgである。また、投与回数も剤形、疾患の程度または年齢等に応じて適宜選択され、1回投与とするか、ある間隔をおいて持続投与とすることもできる。持続投与の場合、投与間隔は1日1回から数ヶ月に1回でよく、例えば、徐放性製剤(デポ剤)による投与の場合は、数ヶ月に1回でもよい。
【実施例】
【0018】
以下に試験例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において各略号の意味は、次のとおりである。
BUN:血中尿素窒素
Cre:クレアチニン
Ccr:クレアチニンクリアランス
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
ELISA:酵素免疫測定法
TGF−β1:Transforming growth factor-β1;腫瘍細胞増殖因子-β1
α−SMA:α-smooth muscle actin ;α-平滑筋アクチン
BCA:ビシンコニン酸
UUO:Unilateral ureteral obstruction;片側尿管閉塞
SDS−PAGE:SDS-Polyachrylamide gelelectrophoresis;ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動
PVDF:polyvinylidenedifluoride;ポリフッ化ビニリデン
HRP:Horseradish Peroxidase;西洋ワサビ過酸化酵素
また、実施例における%は特に明記しない場合は質量%を示す。
【0019】
[試験例1]
慢性型腎傷害モデルネコに対する一本鎖HGFの効果
1.方法
(1)被験物質
被験物質としては、特開2005‐170835号公報記載の方法で調製した組換えネコ一本鎖HGF(以下、ネコHGFと略記する。)を80μg/mL濃度となるよう0.15M塩化ナトリウムおよび0.01%ツイーン80を含有する10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)で溶解した溶液(ネコHGF溶液という。)を使用した。
プラセボとして、0.15M塩化ナトリウムおよび0.01%ツイーン80を含有する10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)を使用した。
(2)供試動物
供試動物は、臨床および血液学的に異常所見が認められないことを確認した10カ月齢以上の雑種雄ネコ12頭を用いた。試験開始前(モデル作出前)の健常時体重は4.38±0.40kgであった。供試動物は、温湿度を管理したクリーンルームで、個体ごとに代謝ケージ内で飼育した。給餌は1日1回の制限給餌とし、「アイムス・チキン」(アイムスジャパン株式会社製)50gを給餌した。給水は水道水を自由摂取させた。
【0020】
(3)腎傷害の作出
腎傷害の作出は、ゲンタマイシン(動物用ゲンタミン注射液、日本全薬工業)を動物の背部皮下に、1日1回、1週間に5日間連日投与することにより実施した。1回投与量は常用量(4mg/kg)の7.5倍用量(30mg/kg)から開始して11.25倍用量まで漸増した。ゲンタマイシンの投与は、原則として1週間に1回の割合で実施する血液検査結果のうち、BUN濃度が50mg/dL以上およびCre濃度が3mg/dL以上を示した時点で個体ごとに終了した。なお、血液検査は、ディスクリート方式臨床化学自動分析装置(シンクロンCX4デルタシステム;ベックマン・コールター製)を用いて、BUNはUVレート法で、Creはレートヤッフェ法にて行った。
次いで、被験物質投与開始時の基準(以下、供試基準という)を表1の通り設定した。
【0021】
【表1】


1)尿および血清Cre、尿量、体重をもとに以下の数式によりCcrを算出した。
Ccr(mL/min/kg)=(尿Cre×尿量)/(血清Cre×1440×体重)
2)デジタル臨床屈折計(SU-202、シー・アイ・エス)を用いて尿比重を測定した。
【0022】
ゲンタマイシンの投与終了後は原則として3週間の観察および検査を行い、各供試ネコにおける腎傷害の病態が供試基準を満たした状態で安定しているかを確認し、被験物質投与開始時点(0d)の指標値のうちCre値をもとに6頭ずつ、以下の2群に区分した。
HGF群(n=6):ネコHGFを1日2回、連続14日間、静脈内投与する群
対照群(n=6):プラセボを1日2回、連続14日間、静脈内投与する群
【0023】
(4)被験物質の投与
HGF群はネコHGF溶液を0.5mL/kg(ネコHGF40μg/kg)の用量で、対照群はプラセボを0.5mL/kg用量でそれぞれ1日2回(9時と16時)、連続14日間(0d−13d)静脈内投与した。
【0024】
(5)臨床所見
試験期間中、各個体の臨床所見(食欲)を観察し、表2の基準に従ってスコア化(スコア0−4)した。また、試験期間中は毎日、薬剤投与前に各個体の体重を測定した。測定値から、各群の平均値±標準偏差を算出した。臨床所見スコアは、0dを基準とした経時的変化についてMann-Whitney検定を用いてそれぞれ検討した。
体重の群内変動は、0dを基準とした各時点との差についてDunnett検定を行った。
【0025】
【表2】


【0026】
(6)血清Creの測定
ゲンタマイシン投与期間中は原則として1週間に1回の割合で、被験物質投与期間中およびゲンタマイシン投与終了後は、0d(投与開始前)、3d(投与開始4日目投与前)、7d(投与開始8日目投与前)、10d(投与開始11日目投与前)および15d(投与中止2日目)に血液のサンプリングを行った。
血液のサンプリングは、各個体の所見等の観察終了後に各供試ネコの頚静脈より血液を約3mL採取し、3000rpmで、15分間、遠心分離して血清を分離し、血清Creを測定した。血清Creは、ディスクリート方式臨床化学自動分析装置(シンクロンCX4デルタシステム;ベックマン・コールター製)を用いて、レートヤッフェ法にて測定した。
血清Creの変化については、0dを基準値として各時点の値を基準値で除した相対値として表し、それぞれの時点における両群間の差についてTukey検定を用いて検討した。
【0027】
(7)尿比重の測定
ゲンタマイシン投与期間中は原則として1週間に1回の割合で、被験物質投与期間中およびゲンタマイシン投与終了後は、0d(投与開始前)、3d(投与開始4日目投与前)、7d(投与開始8日目投与前)、10d(投与開始11日目投与前)および15d(投与中止2日目)に尿のサンプリングを行った。
尿のサンプリングは、各個体の所見等の観察終了後に各供試ネコの24時間排泄尿として自然排泄された尿を各代謝ゲージ下に設置したガラス製三角フラスコに貯留させて採取し、尿量はメスシリンダーを用いて測定し、尿比重は、デジタル臨床屈折計(SU-202 シー・アイ・エス株式会社製)を用いて測定した。
尿比重の変化については、0dを基準値として各時点の値を基準値で除した相対値として表し、それぞれの時点における両群間の差についてTukey検定を用いて検討した。
【0028】
2.結果
(1)腎傷害の作出および区分
各群の0dにおける供試基準は、それぞれ対照群でBUN80.1±21.6mg/dL、Cre5.2±1.5mg/dL、内因性Ccr0.60±0.13mL/min/kgおよび尿比重1.023±0.005、HGF群でBUN92.0±44.1mg/dL、Cre5.3±1.9mg/dL、内因性Ccr0.69±0.28mL/min/kgおよび尿比重1.021±0.004であった。これらの指標値について両群は等しい分散(F検定p<0.05)を示す同等な集団(t検定p<0.05)であった。
【0029】
(2)体重の変化
両群共に有意な体重の経時的変化は認められなかった。
(3)臨床所見
食欲スコアの結果を表3に示す。対照群では、有意な食欲の経時的変化が認められなかったのに対し、HGF群では経時的に有意な食欲の増加が認められた。
【0030】
【表3】


【0031】
(4)血清Cre
結果を図1に示す。血清Creの相対値は、対照群に比較してHGF群では低値を示し、15dにおけるCre相対値は、対照群が0.82±0.09であったのに対し、HGF群では0.71±0.12と減少が認められた(図1)。
【0032】
(5)尿比重
結果を図2に示す。尿比重相対値は、対照群が減少から不変であったのに対し、HGF群ではあきらなか増加を示し、15dにおける尿比重相対値は、対照群が0.9997±0.0033であったのに対し、HGF群では1.0101±0.0072と優位な増加が認められた(図2)
【0033】
[試験例2]腎組織線維化に対する一本鎖HGFの効果
1.方法
(1)被験物質
被験物質としては、組換えネコ一本鎖HGF(以下、ネコHGFと略記する。)を80μg/mL濃度となるよう0.15M塩化ナトリウムおよび0.01%ツイーン80を含有する10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)で溶解した溶液(ネコHGF溶液という。)を使用した。
プラセボとして、0.15M塩化ナトリウムおよび0.01%ツイーン80を含有する10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)を使用した。
(2)UUOモデルネコ
10カ月齢以上の雑種雄ネコの左尿管を結紮してUUOモデルネコを作出し、ネコHGF溶液投与群(以下、HGF群という。)とプラセボ投与群(以下、対照群という。)に区分けした。
【0034】
(3)線維化関連因子の測定
HGF群には、UUOモデルネコ作出(尿管結紮)翌日よりネコHGF溶液を0.5mL/kg(ネコHGF40μg/kg)を1日2回、6日間静脈内投与した。対照群には、尿管結紮翌日よりプラセボを0.5mL/kg用量で1日2回、6日間静脈内投与した。ネコHGF溶液またはプラセボを6日間投与後、各UUOモデルネコから腎組織(水腎を呈した左腎)を摘出した。摘出した腎組織は液体窒素により凍結し、試験に供するまで−80℃で保管した。保管した腎組織を、Mizuno.Sらの方法(Kidney Int. 2001 Apr;59(4):1304-14)に準じてそれぞれPBSと共にホモジナイズ、遠心分離し、得られた上清をサンプルとした。各サンプルについて、線維化関連因子として、TGF−β1、TGF−βリセプター1、フィブロネクチンおよびα−SMAを測定した。線維化関連因子のうち、TGF−β1はELISAにより測定し、TGF−βリセプター1、フィブロネクチン、α−SMAならびにマーカーとなるアクチンについてはウエスタンブロッティングにより測定した。
【0035】
ELISAは、まず、BCA法(BCA kit;PIERCE社製;570nm)による蛋白濃度測定によりELISAに供するサンプルの総蛋白濃度を測定した後にTGF−β1測定用ELISA kit(BIOSOURCE社製)を用いてTGF−β1レベルを測定した。
得られたデータを蛋白1mgあたりの量として算出し、それらについて群間の差について統計学的解析(Tukey法、p<0.05)を実施した。
【0036】
ウエスタンブロッティングは、まず10%SDSポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動によりサンプル中の蛋白を分離した。電気泳動時の添加サンプルは蛋白濃度0.06mg/レーンで統一し、1レーン目は分子量マーカーを添加した。電気泳動後、メンブレン(PVDF膜)に転写した。転写終了後、分子量マーカー部分とサンプル部分の境界でメンブレンを切断し、両者を5%スキムミルク/PBSにてブロッキングを1時間行った。次いで、サンプル部分のメンブレンについて、一次抗体および二次抗体を用いて抗体染色を行った。一次抗体は3時間、二次抗体は1時間の反応を行い、抗体変更時は洗浄液(0.0005%ツイーン20添加PBS)にて3回洗浄した。マーカー部分のメンブレンについては、ブロッキング後に洗浄液にて3回洗浄後、HRP(Precision Strep Tactin-HRP Conjugate(IORAD社製)による反応を行った。すべての作業は室温下で実施した。染色後のメンブレンを洗浄液にて3回洗浄した後に発光基質(ECL Protein Biotinylation Module;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を吸着させ、ルミノメーター(Light-Capture;ATTO社製)を用いて各バンドを検出した。それぞれの検出バンドについて画像解析ソフト(CS Analyzer;ATTO社製)により質量解析を行った。なお、TGF−β1の一次抗体としてはAnti TGF-β1 SC-398(サンタクルズ社製)を用い、フィブロネクチンの一次抗体としてはAnti fibronectin BD-610077(Pharmingen(アステラス製薬)製)を用い、α−SMAの一次抗体としてはAlpha-smooth Muscle antibody M0851(DAKO社製)を用いた。また、二次抗体としてはHRP標識抗マウスIgG抗体(コスモバイオ社製)を用いた。
【0037】
(4)データ解析
各サンプルのTGF−βリセプター1、フィブロネクチンおよびα−SMAレベルはそれぞれをアクチンレベルで相対化(各値をアクチンレベルで除して算出)した量として算出した。得られたデータは各群における平均値±標準偏差を算出し、群間の差について統計学的解析(Tukey法、p<0.05)を実施した。
【0038】
2.結果
本試験における結果を表4に示した。尿管結紮後に腎線維化過程をたどるUUOモデルネコに対してネコHGFを全身的に投与したHGF群では対照群と比較して腎臓のTGF−β1レベルは低値を示した。同様に、腎組織中のTGF−βリセプター1レベルもネコHGFを投与したHGF群で対照群よりも低値を示した。このことは、ネコHGF投与によりTGF−β1の発現および細胞膜に存在するTGF−β受容体の発現が抑制されるものと思われた。またHGF群では対照群よりも腎組織中のフィブロネクチンおよびα−SMAレベルが低値を示し、ネコHGFを投与することにより腎線維化の進行が抑制された。これらの結果から、ネコHGFは傷害腎に対して腎線維化抑制効果を有することが判明した。
【0039】
【表4】


【0040】
[参考例] カイコ虫体での組み換えネコHGFの生産
ネコ白血球由来cDNAを鋳型としてWO01/092332の実施例1(c)に従ってPCRおよびクローニングを行い、プラスミドDNAを得た。得られたプラスミドDNAをWO01/092332の実施例3に従って、片倉工業株式会社Superwormサービスにより、fHGFおよびdfHGFをコードするDNAで組み換えられた組み換えバキュロウイルスを得た。得られた組み換えウイルスのウイルス液をカイコ虫体に投与し、数日間飼育の後、カイコ虫体体液を回収した。得られたカイコ虫体体液を特開2005−170835の実施例に従って精製し、組換えネコ一本鎖HGFとして上記試験で用いた。
なお、得られた組換えネコ一本鎖HGFを常法に従い、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動の後、ウェスタンブロッティング解析を行い、分子量約8.5万の位置に組み換えfHGF蛋白を確認した。また、得られた組換えネコ一本鎖HGFについて、WO01/092332の実施例4に従って血清9%添加DMEM培地においてMDCK細胞を培養することで血清中のHGFの活性化酵素の作用により一本鎖から活性型に変換されたHGFの生物活性の測定を行い、HGF活性を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の治療剤または発病抑制剤は、腎疾患、とりわけ腎不全の治療のための薬剤として有用である。また、肝疾患や心疾患の治療のための薬剤としても有用である。さらに、臓器を問わず、障害を受けた臓器だけを特異的に治療するための薬剤としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、慢性型腎傷害モデルネコにおける血清Creの相対値の経時変化を示す図である。図中dは日を示す。
【図2】図2は、慢性型腎傷害モデルネコにおける尿比重の相対値の経時変化を示す図である。図中dは日を示す。
【出願人】 【識別番号】591281220
【氏名又は名称】日本全薬工業株式会社
【識別番号】502068908
【氏名又は名称】クリングルファーマ株式会社
【識別番号】507044114
【氏名又は名称】有限会社スリーピー
【出願日】 平成19年2月9日(2007.2.9)
【代理人】 【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍


【公開番号】 特開2008−195628(P2008−195628A)
【公開日】 平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願番号】 特願2007−30142(P2007−30142)