【アベドラボ(パレスチナ自治区ガザ北部)前田英司】イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区に侵攻していた7日昼、地区北部アベドラボで、軍の退去命令で自宅を出た幼い3姉妹が突然、兵士に次々と撃たれ2人が死亡、1人が重傷を負った。家族が22日、証言した。「私たちが何をしたのか」。悲しみに暮れ、事件の徹底解明を求める家族。イスラエル軍報道官は毎日新聞に「民間人被害に関して寄せられるあらゆる申し立てを調べている」と説明した。
イスラエル軍戦車が付近住民にマイクで即時退去を命じた直後だった。パレスチナ自治政府職員のハリド・アベドラボさん(30)が娘3人を連れて自宅前に出たところ、少なくとも3台の戦車が配置されていた。
うち1台から身を乗り出した兵士が突然、アベドラボさんらに銃撃を始めた。長女スワドちゃん(7)と三女アマルちゃん(2)が胸や首を撃たれて死亡。次女サマーちゃん(4)も胸などを撃たれて病院に運ばれたが、ガザでは対処できず、エジプトを経由しベルギーへ搬送された。
銃撃に驚き、外に飛び出して泣き叫んだアベドラボさんの母スワドさん(60)も同じ兵士に胸を撃たれ、ガザ市内で入院している。
アベドラボさんが住んでいた5階建ての自宅建物には当時、家族や親類25人がいた。銃撃を目撃したという兄ファウジさん(35)は「撃った兵士は薄笑いを浮かべていた」と証言する。近所に住む救急隊員のエハド・アシェイフさん(29)は異常事態に気づいて救急車で駆けつけようとしたところ、イスラエル軍に阻まれ、救急車を駐車してあった建物ごと破壊されたという。
現場一帯は大地震の被災地のように建物のほとんどがひしゃげて、攻撃の激しさを物語る。アベドラボさんの自宅建物も、娘を運んだ病院から戻ると跡形なくつぶれていたという。戦車の砲弾攻撃や仕掛け爆弾が使われたとみられている。
アマルちゃんが大事にしていた動物のぬいぐるみが残った。「この一帯に(イスラエルが敵視するイスラム原理主義組織)ハマスメンバーは住んでいない。なぜ幼い命が奪われなければならないのか」
アベドラボさんはがれきの前で、三女が一緒に遊んでいたぬいぐるみを握りしめた。
毎日新聞 2009年1月23日 15時00分(最終更新 1月23日 16時41分)