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生きる:外科医の減少=小川道雄・熊本労災病院院長 /熊本

 ◇崩壊する急性期医療

 テレビで雪の中の成人式を放送していた。着物姿の娘さんが、滑りそうに危なげな足どりで、式場に向かう。成人の抱負を聞かれると立派な答え。自分が成人の時、こんな受け答えはできなかった。成人の日を月曜日、連休にしたのはよい考えだ。式のために帰郷できる若者も多くなる。

 この連休、熊本労災病院は救急車を32台、時間外急患を171人受け入れた。外来担当の当直医以外にも、必要に応じて専門医が駆けつけ、入院が必要かどうかを判断する。その結果、救急入院は34人。腹部の緊急手術3件、切断指の再接着手術1件、脳外科手術1件、緊急の心臓カテーテル1件、内視鏡を用いた止血術1件が行われた。

 どれもゆっくりと待機できない手術や処置である。呼び出しを受けた外科系の医師、循環器、消化器の専門医はもちろん、看護師はじめ多くの職員が出動している。これだけ働いても、連休明けの火曜日には通常通り勤務し、外来や入院の診療、手術、検査をした。これが現在の日本の急性期病院の現状である。

 産科、小児科医不足がクローズアップされている。さらに外科系の医師の減少も深刻だ。勤務医を辞める医師の増加と、医学生の志望減少がその原因。外科系医師の基盤となる外科専門医資格を取得するためには、日本外科学会に入会しなければならない。近年入会者数は減少し続け、15年には入会者数はゼロになると推測されている。その数年後には、新しい外科専門医が誕生しなくなることが危惧される。

 日本外科学会の調査でみると、減少理由(複数回答)として、3分の2以上の医師が次の五つを挙げている。すなわち、労働時間が長い▽時間外勤務が多い▽医療事故のリスクが高い▽訴訟のリスクが高い▽賃金が安い--である。

 私が熊本に来てからの20年をみても、明らかに手術数は増加し、労働環境は悪化している。高齢者手術の増加で手術前後の管理が複雑になり、腹腔鏡などを使った傷口の小さい手術の導入で、手術1件当たりに要する時間も極端に長くなった。

 外科医が減れば、残った外科医の負担がそれだけ大きくなる。それは労働条件を悪化させ、さらに外科医離れを進行させる。このことは外科系のみならず、産科、小児科、救急、麻酔科などの急性期を担当する医師、いや劣悪な条件下で働いているすべての医療従事者にあてはまる。

 過重労働と「離れ」現象の負の循環は、今後短時間のうちに、日本の急性期医療を崩壊させるだろう。医療は国民すべての財産だ。バラマキだけで、施政者はそれに気付こうとしない。連休明けの当直報告を聞きながらそんな現状を憂いた。

毎日新聞 2009年1月23日 地方版

 
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