遺棄化学兵器処理 「ハルバ嶺」凍結 政府方針 事業費を大幅削減
旧日本軍が中国に遺棄したとされる遺棄化学兵器の処理事業をめぐり、政府は、砲弾の大部分が埋まっている吉林(きつりん)省・ハルバ嶺(れい)でのプラント建設事業を今後3年間凍結し、事業規模を大幅に縮小する方針を固めた。複数の政府筋が22日までに明らかにした。ハルバ嶺の事業凍結に伴い、中国各地に散在する小規模発掘事業での砲弾回収・無害化作業を先行実施する。これにより事業費は10分の1ほどに縮小される可能性もあり、実態が不透明だとの批判が出ていた処理事業は大きな転換点を迎えた。
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内閣府遺棄化学兵器処理担当室などによると、ハルバ嶺は、旧関東軍の司令部が付近にあったとされ、丘陵地帯に化学兵器の砲弾など30万〜40万発が縦穴2カ所にまとめて埋まっているとみられている。
処理事業は平成11年度から始まり、19年度までに約540億円が投入されている。日中両国政府は16年4月、穴全体を施設で覆い、機械で発掘する発掘回収施設と、砲弾を無害化処理するプラントなどを建設する計画で合意。施設建設費だけで2000億円以上の出費が見込まれていた。
ところが、中国側の調整が進まず事業が膠着(こうちゃく)状態となる中、19年秋には日本政府が事業を全面委託していた遺棄化学兵器処理機構をめぐる巨額詐欺事件が発覚。同時期に日本政府が、発掘回収装置の仕様書に関し、複数の日本企業に意見を聞いたところ「情報が足りず設計できない」と追加調査を求められたという。
与党内などから今後、日本側の負担がどこまで膨らむのか分からないという批判が出たことを受けて、政府は20年3月で処理機構との契約を打ち切るとともに事業計画を再検討。「ハルバ嶺の巨大施設建設には合理性がない」と判断し、当面の事業凍結と事業規模の縮小方針を決めた。
担当室では今年1月から3カ年の予定で再調査の試掘を開始。調査の結果、機械での回収に適さないと判断した場合、手掘りによる回収に切り替えれば、少なくとも発掘回収施設の建設費940億円が不要になると見込んでいる。
一方、中国各地の小規模発掘事業では、建設現場など40カ所以上で出土した砲弾約4万6000発を回収し、約20カ所に貯蔵している。安倍晋三首相(当時)は19年4月、中国の温家宝首相との首脳会談でこれらの砲弾の無害化処理に「移動式処理設備」を導入することで合意した。
この移動式処理設備が効率的に運用できることが分かれば、ハルバ嶺での処理プラントも不要になる可能性もあるため、小規模事業を先行させた方が事業効率がはるかに高いという。
担当室は22日、移動式処理設備を入札し、神戸製鋼が30億円で落札した。移動式設備はトレーラー数台に機材を分乗し各地を巡回しながら処理作業を行う予定で、22年に南京での初稼働を目指す。費用は4年間の運用費込みで106億円を計上している。
政府はこれらの事業方針転換で信頼回復を図りたい考えだが、これまでの事業費との整合性を問われる可能性もある。ハルバ嶺事業凍結により、化学兵器禁止条約で定める24年4月の期限までに処理が終わらないのはほぼ確実で、この点も批判が上がる恐れがある。
- 中国における遺棄化学兵器処理事業 (内閣府 遺棄化学兵器処理担当室)
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