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〈新・学歴社会〉専門学校化する大学

2009年1月5日

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図拡大資格取るなら大学?専門学校?

■現状は―資格試験予備校の受講料負担も

 正門から、まっすぐに延びる道の両側に、立て看板が並ぶ東京経済大学(東京都国分寺市)のキャンパス。

 「祝 会計士試験合格」

 イベント案内などに交じり、大学が立てたピンク地の看板が目を引く。

 「合格」の文字の下には、3人の学生の名前が誇らしげに並んでいた。一緒に、在学生向けの、こんなメッセージも添えられていた。

 「二つ三つは資格をとっておこう!」

 東経大は昨年度から、資格取得を目指す学生のために、特別カリキュラム「アドバンストプログラム」を始めた。公認会計士や税理士の試験対策、英会話スキルの向上など全6コース。各コースで定員は異なるが、20〜30人の少人数制だ。希望者の中から成績優秀者を選ぶ。

 最大の特徴は、資格試験予備校や英会話学校など専門学校の活用だ。例えば、税理士コースでは、大学以外に、「大原学園」に通い、大学が指定した授業を受ける。大学で、このコースを担当する小俣光文准教授は「大学では基礎理論や考える力を教えるが、試験に合格するには受験スキルが必要。それは専門学校で身につけてもらう」。

 専門学校の受講料は、全額、大学負担だ。同コースの場合、1人当たりの受講料は約35万円。同コースの2年の女子学生(20)は「大学って哲学とか抽象的な授業ばかりだと思っていました。ラッキーって感じです」。

 大学進学率が上がるにつれ、学生も多様化した。大学に求められる役割は、研究や教養だけにとどまらない。資格や職業教育は、その一つだ。

 一方で、私大の半数は定員割れに直面している。学生のニーズを探り、大学が資格取得支援に力を入れる傾向は、近年ますます強まり、「大学の専門学校化」とも言われる。

 東経大の場合、制度導入に、異論は出なかったという。「難易度が高い資格が取れることは、他校との競争でもアピールになる。教養教育のカリキュラムもしっかりやっているし、人材育成の一つが資格なら、大学が積極的にかかわるのは自然なことです。学生にも目標があるのはいいことだ」と強調した。

■傾向は―看護・医療分野への参入急増

 美容師、秘書検定――。かつては専門学校しかなかった分野に、次々、大学が参入している。ここ数年、とみに顕著なのは、看護・医療分野への進出だ。

 「もう、乱立ですね」

 看護・医療系大学専門の予備校「新宿セミナー」(東京都新宿区)の田沢弘昭さんは苦笑する。同セミナーのまとめでは、看護師の国家試験の受験資格が得られる大学は00年83校だった。それが08年は169校。倍以上になった。

 もともと、専門学校と、ごく一部の医療系大学しかなかったが、90年代の経済不況や就職難などで学生の人気が資格が取れる学部に傾くと、大学の参入が相次いだ。看護以外にも、作業療法士や理学療法士などの養成大学も新設ラッシュが続く。文系学部しか持たなかった大学が衣替えしたケースもある。

 あおりで、専門学校は苦戦が続く。文部科学省の学校基本調査によると、看護分野の学生は、00年の10万人から、07年は9万人に減少した。

 とはいえ、すべての大学が成功しているわけではない。同セミナーによると、看護系学部のうち、08年春の一般入試の倍率が1倍程度しかなかった私大は十数校ある。新設や地方は苦戦気味だ。田沢さんは「数が増え、選択肢が多くなった分、受験生は教育の質を見極めている。実績のある専門学校は、人気のない大学より入りにくい」と話す。

 理学療法士などを養成する社会医学技術学院(東京都小金井市)の08年春の入試倍率は約3倍だった。大学進学と迷ったという女子学生(20)は、実習などの手厚さを考え、同校を選んだ。高校の担任から「大学の方が広く学べる」と勧められたが、「何を勉強するのかはっきりしない」と揺らがなかった。山田千鶴子・理学療法学科長は「大学がこちらに似てくるほど、うちは生き残れる」と前向きだ。少人数での指導は、大学にはない強みだという。

■課題は―教養重視か実学か、続く模索

 専門学校側も危機感を募らせる。「職業教育」という枠組みで、大学と同じレベルの新しいタイプの学校をつくるべきだという方針を打ち出し、文部科学省の「専修学校の振興に関する検討会議」も昨年11月、同趣旨の案を検討課題に挙げた。会議では、大学の専門学校化も話し合われ、「職業教育における大学と専門学校の違いは何か」を議論する必要性を指摘した。

 そもそも大学とは、何を学ぶところなのか。大学と専門学校で、もっとも異なるのは「教養教育」の存在だ。

 国際基督教大学(東京都三鷹市)は長年、実学重視の流れとは一線を画し、少人数制で幅広く学べる独自の教養教育を続けている。

 日比谷潤子副学長は、きっぱりと言い切る。

 「大学の学問は職業のためにあるのではありません。ものの考え方や人生を学ぶ教育が大切なのです」。同大には、他大学からの視察や提携の依頼が相次ぐ。

 一方、大学の中で、教育内容を整理する例もある。

 桜美林大学(同町田市)は、数年前から全面的に学部を再編し、四つの学群にまとめた。教養教育重視の「リベラルアーツ学群」で、文学、政治、数学、化学と広い学問領域を集める一方、実学重視の「ビジネスマネジメント学群」は、職業に直結する経営、観光学のほかパイロット養成コースを置くなどした。

 佐藤東洋士学長は「学問をやるところ、技術を学ぶところなど、機能で分けた」と狙いを話す。

 自分の大学は、社会でどんな役割を果たすべきなのか。大学経営者や教職員の模索は続く。(原田朱美)

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