【ラファ(エジプト・ガザ境界)=田井中雅人】エジプトとパレスチナ自治区ガザの地下を結ぶトンネル網が、イスラエル軍の空爆で大打撃を受けた。トンネルはイスラエルによるガザ封鎖の下で、住民の生活物資や、イスラム過激派ハマスに武器の機材を運ぶ通路になっていた。エジプト側のトンネルの「管理者」がその実態を証言した。
「商売あがったりだ」。エジプト側のラファ郊外で「管理者」の一人ハッサン氏(30)=仮名=が嘆いた。地下約20メートルで境界を越え、ガザ側のラファまでを結んでいたトンネルが、イスラエル軍による5日の空爆で破壊されたのだ。エジプトとガザの境界周辺の地下には、約千本ものトンネルが張り巡らされていたが、連日の空爆でほぼ壊滅状態という。
ハッサン氏はガザ側からの注文に応じて食料や燃料、電気製品などをカイロなどで調達して搬入、ガザ住民の「生命線」を担ってきた。トンネル「通過料」は発電機1台150ドル、羊1匹100ドルが相場だという。
一方で、ハマスがロケット弾を作る材料にするという水道管200本(5千ドル)、TNT火薬1トン(5千ドル)といった注文もさばき、過去3カ月で15万ドルを稼いだ。
ハッサン氏らトンネル管理者の多くは、ベドウィンと呼ばれるシナイ半島の遊牧部族民で、ガザ境界周辺に土地を持っている。昨年1月にガザ側から境界壁が破壊され、封鎖に苦しむガザ住民らがエジプト側に一時、大量に流入した。そのころ、ハマス側から「ガザ側から掘るトンネルの出口を設けさせてほしい」と要請されたという。
ハッサン氏らがガザに物資を提供するのは、商売のためだけではないという。「ガザの抵抗闘争を助けているのが誇りだ」と話す。ベドウィンはかつてパレスチナ解放を掲げたエジプト軍に情報提供などで協力したが、イスラエル軍に敗北。82年までイスラエルの占領下に置かれ、抑圧された経験があるためだ。