救急医療専門医が同乗して患者を治療しながら搬送できる「ドクターヘリ」が、4月から県内全域で導入される見通しになっている。これまで県南部は和歌山県とドクターヘリが出動する協定を結んでいた。その他の地域でも大阪府と今年度内にも協定を締結するめどが立ち、出動が可能になったからだ。山間部が多い南部や東部の救命率向上に期待が寄せられている。【阿部亮介】
ドクターヘリは99年に神奈川県や岡山県で試行事業が始まった。07年6月にドクターヘリの確保に関する特別措置法が成立。配備した都道府県などに国が補助金を支出できる仕組みが整った。これまで14道府県で整備されており、厚生労働省の担当者は「医療過疎と言われる地方でも、高度な医療機関を利用できる。ドクターヘリの導入で、助からない命も助けることが可能になった」とメリットを強調する。
県は既に配備していた和歌山県と04年2月に協定を結び、十津川、五條市大塔地区、天川、川上、上北山、下北山、野迫川の1市6村のみでドクターヘリの運航を開始した。これまで年に1~5件の出動だったが、今年度は既に10件の出動要請があった。
ドクターヘリの出動要件は、(1)命の危険がある重傷(2)現地で救急医療専門医が治療する必要性の二つ。ドクターヘリが着陸できるヘリポートまでは救急車が搬送する。1回の出動で和歌山県に対し、県が31万9000円を支払う。ドクターヘリ内での治療費は患者負担となる。
昨夏には、十津川村の研修場で清掃作業中だった作業員の男性が、断がいから約25メートル下の河原に転落。全身打撲で意識不明の重体になり、和歌山県からドクターヘリが出動した。
事故が分かったのは午前11時で、同村小原中学校に搬送。ドクターヘリが現地に午後0時15分ごろに着き、約1時間治療した。搬送先の和歌山県立医大病院に着いたのが午後1時半ごろで、男性は一命を取り留めたという。救急車の搬送なら1時間以上遅れ、その間に治療できない可能性が高かっただけに、県の担当者も「時間がかかっていたら重症度も高まっていた。命の危険もあったかもしれない」と話す。
4月以降は大阪府との協定で県全域がカバーされる見通しだ。大阪府のドクターヘリは大阪大学病院(吹田市)に待機しており、県内各地に10~15分で到着できるという。現在、県はドクターヘリが着陸できる場所の確保について、消防と協議を進めている。今後は、東部地域の山間部やこれまでカバーされなかった南部地域での利用が期待される。大阪府の担当者も「近畿で広く活用してもらいたい」と話している。
毎日新聞 2009年1月18日 地方版