投資減税で需要喚起目指せ
 経済デフレ対策について
                自由民主党政調会長 麻生太郎


 内外ニュース東京懇談会の8月例会は2日、東京赤坂プリンスホテルで行われ、自民党政務調査会長の麻生太郎氏が「経済デフレ対策について」と題して講演した。この中で麻生氏は「不況、デフレは地価の値下がりが原因である。土地に関する税制、規制をすべてバブル以前に戻せば、不良債権は解消する。税制改正をうまくやれば3年先には経済再建が可能である」との見解を示した。また同氏は「需要を喚起するためには投資減税を優先すべきである」とし、また「企業の交際費減税と広告税の新設をセットで考えたらよい」と強調した。
(講演要旨は次の通り)



  今、デフレ不況という言葉がまかり通っている。マスコミがつくった言葉だと思うが、デフレだから不況とは限らない。インフレでも不況はあったし、デフレでも好況はあった。デフレも不況も結果であって、原因は別のところにある。
 いちばんの原因は1990年から今日までの間に、資産という名の土地の価格が日本全体で約800兆円から1000兆円値下がりしたことにある。土地の価格が下がったのは、1990年に当時の大蔵省がとった、土地の金融に間する総量規制の結果である。
 1985年の「プラザ合意」によって、当時1ドル240円だったドルは120円に暴落した。輸出が大変だと大騒ぎになり、「円高不況」という言葉が生まれた。当時5%だった日銀の公定歩合は、1年間に0・5%ずつ5回下げて、金利は2・5%まで下がった。景気は立ち直って86年からよくなる。
 日銀は物価を考えて金利を上げようとした。しかし、アメリカはさらなるドル安・円高になることを望まず、日本の金利は据え置いてもらいたいと希望した。それに応じた日本は金融が緩んだままになり、余ったカネはほとんどが土地と株に集中して、バブル経済状況が起きた。
 土地の価格を下げるには税制だということで、総量規制に続いて土地の譲渡益への課税率を上げ、そのほか登録免許税、買い替え特例の廃止など、26もの税制改正と規制を行った。効果は抜群で、10年間で商業用地は全国平均で83%下がった。それがすべての不況の原因、もしくはそれによって起きたデフレの原因だから、土地にかかわる税制・規制はすべて、バブル以前の1985年当時の税制・規制に戻す。答えは極めて簡単である。
  (日本は)景気回復宣言をしたけれども、アメリカは悪くなってきた。アメリカの経常収支は史上空前の大赤字である。ドル安になって輸入品の価格は上がり、それに伴って景気は落ちる。しかし、ブッシュ大統領はこの11月の中間選挙に勝ち、2年後の大統領選挙に再選できるかどうかをいちばんに考えている。
 したがって断固として景気浮揚を目指し、財政出動に主眼をおいている。だから日本に対しては、当然、内需拡大を要求してくる。その時に日本が(来年度予算編成の)シーリングなどでガチガチにすべきでない。これが(経済デフレ対策の)第1点である。
 2つ目は、需要の絶対量が不足していることが大きな問題である。需要を喚起するための税制を検討すべきだ。法人税を下げることは、国際基準に合わせるという点では間違っていない。しかし、今の法人税約10兆円は25%の企業が払っており、残りの75%は払っていない。外形標準課税で赤字企業からもカネをとるというが、政治的にいったら難しいと思う。需要拡大のためなら技術投資を促進する減税、すなわち投資減税を優先すべきだ。
 3番目は、増税と減税を一緒にやるべきだと考えている。外形標準課税の総務省案は基本的には人頭税だ。しかし、雇用者の数に応じて課税するというやり方は、失業率を上げることになりかねない。例えば、資本金割り分担金にしたらどうか。資本金1000万円以下の会社は月々5000円で年間6万円。5万円でもいい。十何人かの人に聞いてみたがみんな異論はなかった。それだけで3000億円を超える。
 もう1点、考えてもらいたいことがある。それは広告税だ。広告費は無税であり経費で落ちる。交際費は100%課税されるが、広告費はゼロ。だが、両方とも営業行為にかわりはない。私は、広告費も交際費も、両方一律10%の課税が正しいと思っている。100万円飲んだら10万円は課税対象。実効税率50%として(税金は)5万円。同じく広告費も1億円出せば、それに対して課税は1000万円の半分、500万円。過去にこの話は全部つぶされたが、広告費をたくさん使っている企業に交際費とセットにして話を持ち込んだら、もれなく異論はなかった。
 相続税、贈与税だが、日本銀行が捕捉している現預金だけで1400兆円ある。このうち65歳以上の高齢者が持っている比率は51%だ。全人口の約18%の高齢者が現預金の5割を持っている。若い人は住宅ローンの返済が終わっていないから債務も残っている。
 したがって、純債権の比率でみると、72%は65歳以上の方のものだ。この元気な高齢者のおカネを、どうやってうまく使ってもらうかを考えない企業は、これからは伸びない。
 日本は690兆円の借金だという。しかし、日本の場合は借金に見合う担保がある。外貨準備高は世界一だ。対外純資産は世界一、貿易収支は先進国唯一の大黒字である。加えて個人金融資産、国有財産がたくさんある。われわれが置かれている状況は、おカネがある状態での不況だということを頭に入れていただきたい。
 政治家の立場として、私どもの時代に国策を間違えたと、後世になって糾弾されることのないよう、時代づくりをやりたいと思っている。
  (いつになったら日本経済は元通りになるのか、という質問に)土地の価格が今よりも2割もとに戻るだけで、基本的には不良債権はなくなる。税制改正さえうまくいけば、3年先というのがいいとこかな、と思っている。

(週刊「世界と日本」1546号。講演録はじゅん刊「世界と日本」に掲載) 戻る