早い話が

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早い話が:琉球海溝の中国加油=金子秀敏

 「加油(ジャーヨー)」とは中国語で「油をさす」、転じて「がんばれ」。北京五輪では「中国、加油!」の声援がスタンドを揺るがせた。

 昨年末、インターネットの動画サイトに「2009、中国加油」というビデオが投稿された。小学生が並んで散文詩を朗読する映像だが、注目されたのは、この詩が排外主義的な空気を反映していることだ。

 チベット仏教のダライ・ラマ14世と会談したサルコジ仏大統領を罵倒(ばとう)し「中国はおじ気づいたか? さにあらず、五輪は成功、我ら勝利す!」と子どもたちに叫ばせる。かつての反日デモ、去年の反仏デモのころの雰囲気だ。いろいろなサイトが転載した。

 なぜ、中国で排外主義がもてはやされるのか。急速な景気の落ち込みで株価が下落、企業が倒産し失業問題が深刻だ。人々の不満が暴発する予兆と分析する欧米の専門家もいる。

 日本にとっても無関心ではいられない内容だ。この詩には四つの領土ナショナリズムの要素がある。

 (1)は「タリムの石油、しあわせの花咲かしめよ」--新疆の要素、反ウイグル独立だ。

 (2)は「タワンの笛の音、響けヒマラヤに」--チベット要素。タワンはチベット南部の地名でインドが占拠し中国と紛争になっている。

 (3)は後回しにして、(4)は「日月〓(にちげつたん)の微笑よ、太平洋の花となれ」--台湾要素。日月〓は台湾中部の湖。打倒、台湾独立である。

 問題は(3)だ。「中山世土の積もりし怨(うら)み、琉球海溝を埋め尽くせ」--これって、琉球奪回ではないか。

 「中山世土」は、沖縄の首里城に掲げられた扁額(へんがく)の文字。清の時代に康熙帝から琉球王に下賜された。中山王朝が世々統治することを認めた。詩の意味は、中国の属国だった琉球を日本に奪われた怨みを晴らせという主張だ。

 おそらく尖閣諸島(中国名は釣魚島)を守れという「保釣」意識が、東シナ海の領有権の主張に広がり、抗日戦争時代の琉球奪還論が中国の大衆意識の中で息を吹き返してきたのだろう。

 中国政府は、春節の前に社会不安をあおりそうなホームページを取り締まった。保釣運動活動家の討論会も禁止された。東シナ海ガス田開発などで反日デモを仕掛ける気配を察知したのだろう。中国では社会的安定が揺らぐと排外主義が高まる。これから「中国加油!」と叫ぶ反日デモが起きるかもしれない。(専門編集委員)

毎日新聞 2009年1月15日 東京夕刊

 

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