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農地漂流:砂利採取し建設残土 違法「改良」が多発 茨城県、規制強化へ

 土建業者らが農家に「農地改良」を持ちかけ、農地を掘って砂利を採取し、建設残土で埋め戻す違法行為が多発していることが分かった。砂利採取と廃棄物処理をセットで行う新手の農地荒らし。茨城県では07年度だけで少なくとも25件確認され、県は「安全性の確証が得られない農地で作物を育てて出荷したら問題」と、来年度から農地改良の規制を強化する。他県でも行われている恐れがあるが、調査されていないため実態は不明だ。【石原聖】

 農地改良は畑や田の土を良質な土と入れ替えるのが目的。農地法に基づく一時転用許可が必要で、茨城県は50センチを超えた掘削を禁じている。入れ替えに使う土は、元の土と同等以上の質で、同じ市内か隣接自治体の土にしなければならない。

 茨城県によると、25件はいずれも無許可・無届けの農地改良で、是正を指導した。どのケースも砂利を採取した後、東京都内のマンション建設現場などから出た残土を運んで捨て、その上に元の表土を盛る手口。県南部の利根川沿いでは2~3メートル以上掘ると良質の砂利が取れるため、過半数の13件は鹿嶋市など利根川周辺の自治体で行われていた。

 鹿嶋市農業委員会によると、埼玉、千葉、神奈川県で建設残土の不法投棄の規制が強化された06年から増え始めた。離農や高齢化で耕作できない農家に業者が持ち掛けているといい、深さ10メートル近く掘られたケースもある。市農業委は「何が埋められたのか確認できない。農地として使いものにならない恐れがある」と懸念する。

 このため茨城県は4月から、すべての農地改良で事前協議を義務づける。

 日本砂利協会によると、規制のため国産の砂利は減少傾向で、05年5月からは中国が「自然保護と国内優先」を理由に輸出しなくなり、砂利の需要が高まっているという。

 ◇業者から現金、後悔も 元農家男性「安全なのか…」

 自分の畑で砂利採取や残土投棄をさせた茨城県鹿嶋市内の元農家の男性(75)が毎日新聞の取材に応じた。業者から現金を受け取ったことや「産廃は入れない」などと業者と念書を交わしたと証言。一方「畑は今後も本当に使えるのだろうか。やめれば良かった」と後悔も口にした。

 男性は04年まで三つ葉とメロンを栽培していたが、高齢で後継ぎもなく離農。畑は別の農家に貸していた。

 06年2月ごろ、土建業者らが、約9000平方メートルの畑の「穴掘り」を持ち掛けてきた。業者は「お宅の畑は水がしみ込まない。地中の砂の塊を取った方がいい」と言う。「砂利が欲しいんだな」。男性はぴんときた。

 農地の賃貸収入と年金が頼りの生活。業者は450万円を払うという。魅力的だった。

 念書は「(東京方面の建設現場で出た)東京残土に限る」「農地として使いものにならなければ当社で借りるか買い取る」。残土が環境基準に適合することを示す検査証も添えられていた。

 男性は「残土だけに見えたが、夜中は見回れない。そもそも本当に安全なのか」と揺れる心をのぞかせる。

 「工事後はまた貸すつもりだが、借りてくれるかどうか。作物を作る人がいなくなれば意味がない」。元農家はつぶやいた。

毎日新聞 2009年1月7日 東京朝刊

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