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101114 <読書欄> 大東亜戦争研究の一級資料

    大本営陸軍部戦争指導班 

       『機密戦争日誌』 錦正社刊  




  今年もまもなく12月8日を迎えることになるが、戦後53年が
経った現在でも、開戦に至る経緯と大東亜戦争の経過について、軍
の当事者により一貫した形で記述された一時資料は殆ど見当たらな
い。

  そうしたなかこの度、大本営陸軍部第二十班(戦争指導班)の
業務日誌『機密戦争日誌』が錦正社より出版された。

 大本営の各部課でも業務日誌を作成していたが、終戦の際の混乱
による消却や遺失で、現存するのはこの二十班のもののみである。
これまでもごく一部が発表されてきたが、全文が公刊されるのは
今回が初めてである。

 執筆時期は、昭和15年6月1日から20年8月1日に亘り、
まさに開戦直前の状況や大東亜戦争全般の展開を網羅しており、
さらに終戦を巡る動きに関しては、竹下正彦中佐が執筆した
「機密作戦日誌」により補われている。

 本日誌は、第二十班の班員であった種村佐孝原四郎甲屋悦雄
等が、リレー式に交替で日常の業務を記述したものである。

 第二十班という大佐を班長とする5名程度の小所帯の日常業務と
いっても、大本営政府連絡会議や最高戦争指導会議の事務をも担当
しており、大本営及び政府の戦争指導の基本方針に関する決定経緯
を知り得る記録が政府・海軍双方に残されていない現状のもと、極
めて貴重な記録であるといえよう。

 大東亜戦争に際して、天皇、政府、そして陸海軍の戦争指導はい
かなるものであったか、その実態の一端を示す好個の史料である。

 御前会議によって開戦を決定した昭和16年12月1日の記述は
次の通りである。

 「正ニ歴史的御前会議ナリ  真ニ世界歴史の大転換ナリ  皇国
  悠久ノ繁栄ハ茲ニ発足セントス  百年戦争何ゾ辞セン  

  一億国民鉄石ノ団結ヲ以テ勝利ノ栄光ヲ見ル迄邁進セントス  
  当班既往ヲ回想シ感無量此ニ之筆ニ尽シ難し」

 担当者の当時の感慨、気負いが如実に伝わってくる一節である。

 昨今、大東亜戦争を巡る歴史認識についての議論が盛んであるが、
現在の第三者的立場から判断するのではなく、こういった一次史料
を通して当事者が置かれていた立場を理解することから始まるのは
言うまでもない。いづれにせよ、本書は今後大東亜戦争を研究する
者にとって、第一級の必須文献であり、一読を薦める次第である。

                      評・庄司潤一郎

 

 
(平成10年11月25日号)

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