任期満了に伴う知事選は立候補した2人が激しい舌戦を展開しているが、医師不足、雇用不安、農業--と県政はさまざまな課題を抱える。そして課題の解決策はリーダーにより異なる。県政の「現場」の課題を探るとともに、立候補した吉村美栄子氏(57)と斎藤弘氏(51)の意見を聞いた。
午前8時過ぎ、外来患者で新庄市の県立新庄病院の待合室は混雑を極める。最上8市町村唯一の中核病院。医療機関の乏しい最上地方の住民はこの病院に集中する。
特に産婦人科への集中ぶりは激しい。05年度210人、06年度306人がこの病院で誕生した。それが07年度は531人と2年前の2・5倍以上に増えた。「07年3月に、市内の産科医が出産取り扱いをやめた。それが影響している」と新庄病院総務課の伊藤義一・運営企画専門員は話す。最上地方で出産可能な産婦人科は3カ所だけ。そして新庄病院も産婦人科医は2人しかいない。
2人目の子供を産む新庄市泉田の加藤小百合さん(39)は「出産できる個人の開業医がたくさんあれば、そこで産みたいという人は多いと思う。一人の医師に妊娠から出産まで対応してもらい、安心して子どもを産めるから。最上地方では産む場所を選ぶこともできない」と話す。
なぜ医師はいないのか。
大沼茂幸・県最上総合支庁保健福祉環境部長は「最上地方は豪雪地域で、高度な教育機関に欠けるとも指摘されている。子供を山形市で教育を受けさせるため山形市から通勤する医師もいる」と話す。
そして「医師が少ないと専門以外の診察も担当せざるを得ない。医師は、自分が目指す専門を極めるため、どうしても設備が整った病院を望む。医師が少ない病院は専門を極められないうえ激務になる」と医師不足がさらに医師不足を招く悪循環を説明する。
また特に産科医は医療訴訟に発展するケースが最近目立ち、産科医を敬遠する若い医師が増えている。医療訴訟の背景には医師と患者の信頼関係が薄れたからという側面もある。医師が次から次へと診察に追われ、患者に詳しく病状を説明する時間がなく信頼関係が築けないという事情だ。ここでも医師不足の悪循環がある。
県は、医師不足の対応策の一つとして、開業医と中核病院の役割分担の徹底を模索している。最初の診察は開業医で受け、高度な治療は中核病院でという分担だ。しかし、患者は高度な医療ができる病院に最初からかかれば安心という思いが強い。抜本的な解決策となるかは不明だ。【米川康】=つづく
◆両候補に聞く
地方の医師不足が深刻な現状を受け、どのような政策を実施するか、両候補に聞いた。
ドクターバンク制度の充実▽(事務作業を補助する)医療クラークの配置などによる過重労働の軽減▽修学資金の貸し付け▽院内保育所の設置など女性医師の労働環境の整備▽山形大病院と県立病院を核とした医師派遣ネットワークシステムの構築--など策を講じる。魅力ある病院になるよう県立病院の改善を進める。
今いる医師を大切にするため、医療クラークの配置▽分娩(ぶんべん)手当の創設▽病院24時間保育所整備--など勤務環境整備を進める。また国内外の先進的病院での研修や修学資金、ドクターバンク制度などを活用。総合周産期母子医療センターなど、やりがいある高度な医療環境を整備する。
毎日新聞 2009年1月12日 地方版