教育

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

死産・新生児の死:亡き子への思い、支えて 病院の対応に傷つく親多く

 死産や病気などで子どもを失った親たちの悲しみは深い。しかし、医療機関の対応により、かえって悲しみが増し、孤立している人も多い。そんな親のグリーフ(悲嘆)をケアする自助・支援グループが先月、北九州市で開かれた東アジアグリーフケアセミナーに集まり、医療機関のケアの充実を求めた。【板垣博之】

 「自助グループが増え、支援する病院も増えてきたが、病院によっては対応はまちまち。多くの人が病院の対応に満足していない。亡くなった子でもひとりの人間として対応してほしい」。流産や死産、新生児死を経験した親たちの自助グループ「W1thゆう」の佐藤由佳さんは訴えた。

 同会の03~05年のアンケート結果(回答357人)では「心のケアを受けた」と答えたのは8%。それが06年~08年6月の結果(回答220人)は17%に増えたものの、「心のケアを受けなかった」と答えた人は71%から68%にわずかに減っただけだった。

 グリーフケアに詳しい産科医の竹内正人医師は「医療の現場はいい環境になってきたと思っていた」と話した。かつて病院では死産した子を親に対面させないことが多く、子どもをステンレス製の皿に乗せている病院さえあった。だが、自助グループが声を上げ始めたことで、病院でもグリーフケアへの関心が高まり、死産でも親子が対面し、抱っこして写真を撮るなど、思い出作りに配慮するところが増えてきたからだ。

 竹内医師はアンケート結果について「医者は医療的視点で見るが、母親の受け止め方は違う。病院では形だけ赤ちゃんを抱っこさせるなど、表面的なケアになっているのではないか」と指摘した。

 「SIDS(乳幼児突然死症候群)家族の会」副理事長の吉原良子さんは「親たちは『次の子が生まれるから忘れて』『上の子がいるから』といった医療者の言葉に深く傷つく。言葉一つで、残された家族が前を向いて生きていけるかどうかが変わる」と、医療側の配慮を求めた。

 関西では、体験者や医療関係者が集まり、07年から「流産・死産・新生児死亡で子どもを亡くした家族と保健医療従事者の寄り合い1n関西」という試みが始まった。会合やメールで意見交換を重ねている。

 中心メンバーの助産師の岡永真由美さんは「体験者と交流することで自分たちのケアがこれでいいのか問い直す機会になる。周産期の死は突然で、医療者も立ちすくんでしまう。親子のお別れまでの短い時間で傷つけずに何ができるのか考えたい」と話した。

    ◇

 子どもを失った親たちの自助・支援グループは10年ほど前から徐々に増えている。今回セミナーを主催したのは、北九州市の「子どもを亡くした親と家族を支える会・星の会」など全国各地の8グループが中心となった実行委員会だ。

 委員の一人で「W1thゆう」スタッフの山本弥生さんは「1人じゃないことを知ってほしい」と、子どもを亡くした親たちに呼び掛けた。

 山本さんは96年、双子の1人を死産した経験を持つ。子どもとの対面も許されず、医師らから「泣かないで」と言われた。悲しみをこらえ、日常の生活に戻ったが、うつ状態になり、突然体が動かなくなったこともあった。

 同会ができたのは02年。これまで宮城や大阪、東京で計37回の「お話し会」を開き、約300人が参加した。山本さんは「私も涙を流し、体験を話すことで自分と向き合い、前に進めた」と話した。

 「天使がくれた出会いネットワーク」は、北海道から九州まで各地のグループが参加している。ホームページ(http://tensigakuretadeai.net/)には各グループの連絡先が掲載されている。

毎日新聞 2009年1月8日 東京朝刊

関連記事

教育 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報